今年度は、横浜山手地区の文献・ヒアリング調査・現地視察、ペナン・ジョージタウン地区での現地調査を実施した他、ハノイでは他の研究事業で実施したヒアリングの分析を行った。また、過年度に実施した台北Dadaocheng地区での歴史的環境保全の関係主体の役割について分析した内容を論文にまとめ、国際シンポジウムで発表した。 横浜については、文献調査・専門家ヒアリング調査から、地元住民組織が主体的に都市計画等の制度を活用しながら実質的な保全のための効力を高めていった事がわかった。市側でも山手の保全を意識した取組の中で地元との協議の必要性が認識され、まちづくり活動の支援事業も活用しながら専門家が地元に継続して関わり、主体的な住民活動の意向を尊重しながら支援が行われた。 ペナンでは、政府機関、NGO、地元住民、専門家へのヒアリングより、NGOの積極的かつ精力的な活動が遺産保全に大きく貢献したことが分かった。多様な関係者が活動を繰り広げ、事業に応じて委託・協力も頻繁に行われている一方、全体の動きを共有・調整するプラットフォームは十分形成されておらず、個人間の情報共有に依存している状況が推察された。 台北では保全に関わった各主体の役割の分析から、保全活動の展開における5つの要素を抽出した。①保全活動のトリガー、②公共予算支出のための根拠付け、③保全事業実現のための制度設計、④実施、⑤実施されている保全事業の持続可能性の確保。各主体に期待される役割として、次の5点を挙げた。①NGO:地区の本質的価値を維持するためのバランサー、②都市発展局:風致地区計画改訂での地区内の住みやすさへの注力、③都市発展局・都市更新処:地元コミュニティを保全に巻き込む方法の模索、④都市発展局・都市更新処:容積移転後の修復された歴史的建造物の再利用の質の確保、⑤都市更新処:観光以外の代替産業による既存産業の活性化の促進。
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