研究課題/領域番号 |
24860067
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
久保 裕也 福岡工業大学, 工学部, 准教授 (90604918)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | スラグ / リン / 比重分離 / 資源化 / 鉄鋼製錬 |
研究概要 |
受給者は鉄鋼製錬で発生する製鋼スラグ(特に脱リンスラグ)からリンを分離回収することによって、製鋼スラグ発生量の削減と、貴重なリン資源の確保を目指している。受給者らは凝固後の製鋼スラグ中のリン濃縮固相を回収する手法としてこれまでに湿式磁気分離法を開発した。しかし、この手法は高い分離性能を示すものの、スラグの粉砕工程、分離残渣を上工程で使用するための乾燥工程でのエネルギー消費量が大きいので、実用化に際しては磁気分離に供するスラグ量を削減することが求められる。当該年度は、排出時の溶融状態の製鋼スラグがリン濃縮固相と鉄含有液相との共存状態であることに着目し、比重差を利用して溶融状態で両者を粗分離する手法の検討を行った。 高温融体の比重分離装置は新規の試みであったため設計から作製まで独自に行った。これにより調整の容易さの確保と予算の節約が可能となった。耐熱性、強度、熱容量などの観点から材質を比較検討し、SUS310S、アルミナレンガ、カーボンボンドセラミックスを中心部の素材として選定した。 まず、スラグ中のリン濃縮固相と鉄含有液相の比重分離が原理的に可能であるかを確認するため、遠心分離機構を備えた装置を作製し、模擬スラグを用いた遠心分離実験を行った。その結果、予想通りスラグの上層にリン濃縮固相が浮上分離することが確認された。遠心分離機構では強度や駆動システムの制約上、現場で発生する大量のスラグを連続処理することができないので、続いて連続処理が可能なサイクロン方式の検討を開始した。しかし、試運転の段階で中心部の機構、シール性、加工面などで多数の問題点が明らかになった。本格的なサイクロン分離試験を実施するためには駆動部の強度向上、排出機構の改良、密閉性の向上などの大幅な改造が必要である。次年度はこれらの改造を装置に施した上で引き続き分離試験を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
製鋼スラグ中のリン濃縮固相と鉄含有液相を溶融状態で比重分離することが原理的に可能であることは確認されたのである程度目的は達成されている。しかしながら、最終目的であるサイクロン法については装置の作製を進めたが、中心部の機構、シール性、加工面などで想定以上の問題点が明らかになり大幅な追加改造が必要な状況であるため進行はやや遅れ気味である。 当該年度は装置作製がメインとなった。耐熱性、強度、熱容量などの観点から材質を比較検討し、SUS310S、アルミナレンガ、カーボンボンドセラミックスを中心部の素材として選定した。予備実験においても予定通りの耐久性能が得られた。装置内部に遠心分離機構、障壁を備えているため加熱部が大きく、当初想定より消費電力が大きくなってしまったが、発熱体、トランス、サイリスタなどの追加により予定通り1450℃まで昇温可能となった。まず、スラグ中のリン濃縮固相と鉄含有液相の比重分離が原理的に可能であるかを確認するため、4種類の模擬スラグを用いた遠心分離実験を行った。その結果、本研究の核であるスラグの上層にリン濃縮固相が浮上分離する現象が確認された。続いて連続処理が可能なサイクロン方式の検討を開始した。しかし、試運転の段階で中心部の機構、シール性、加工面などで多数の問題点が明らかとなり、本格的なサイクロン分離試験を実施するためには駆動部の強度向上、排出機構の改良、密閉性の向上などの大幅な改造が必要である。これに伴い当該年度中を予定していた装置の完成が次年度に延期することとなった。改善策および修正スケジュールはまとまっており、次年度中には予定通りの研究を遂行可能な見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
前年度作製したサイクロン分離装置は試運転の段階で中心部の機構、シール性、加工面などで多数の問題点が明らかになった。これらを解決し、当初の目標である溶融脱リンスラグの比重分離試験を実施する。 当初予定より発熱部および付帯設備全体が大型化したため部材のひずみや密閉性の低下が問題となっている。そこで、装置構成の合理化、部材の厚肉化、パッキン類による補強を行う。これにより、負荷が大きい分離部材の損耗も抑制可能と考えている。また、サンプルの粘性が想定より高かったので、加圧部および分離部の形状を修正し高温融体の流れを改善する。分離試験では、リン濃縮固相の分離に適した条件を見出す。具体的には、リン濃縮固相の分離率に及ぼす組成、温度、およびサイクロン条件(サイクロン径、ボルテックスファインダー径、スピゴット径など)の影響を調べる。また、流体の粘性は分離性に大きな影響を及ぼす因子なので、スラグの粘性についても測定を行う。 サイクロン法が実現した場合、これまで申請者らが提案してきた磁気分離法よりさらにエネルギー、資源投入量の削減が見込まれる。そこで、得られた結果を基にして、比重分離法が実現した場合の波及効果について定量的に分析する。 本研究計画はサイクロン法をベースとしているが、溶融スラグの粘度が高いため得られるリン濃縮固相の分離率が低い場合が懸念される。その場合はスパイラル分離法をはじめとしたサイクロン法以外の比重分離法も含めて検討を行い、本研究の目的達成を目指す。
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