寒冷圏の部分循環湖における微生物学的硫黄循環の解明は、気候変動に伴う嫌気環境の拡大の理解とその防止に役立つ。本研究の目的は、寒冷圏の部分循環湖における硫黄循環に関わる微生物群集構造を解明し、そこでの主要な微生物の系統と機能の関連付けを行うことである。 調査地の春採湖(釧路市)は年間を通して表層と深層が混ざり合わない部分循環湖である。また冬期には表面が完全に凍結するという特徴がある。 本年度は研究計画の前半として、本調査地の物理化学的特徴付けと、分子生物学的手法を用いた微生物群集構造の解析を行った。春期および冬期の湖水と堆積物を採集した。種々の環境パラメータを測定したところ、水深3.75 m付近に化学躍層があることがわかった。加えて湖底近くで非常に高い濃度の硫化水素が測定された。湖の表層、深層、化学躍層および堆積物中の微生物群集構造とその分布様式を明らかにするため、分子生物学的手法(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法、16S rRNA遺伝子のクローニング、蛍光in situ ハイブリダイゼーション法)を用いた。その結果、出現する分類群は全水深を通して類似しているものの、その存在比は各水深によって異なることが明らかになった。これは群集構造の季節変化をより詳細に解析するための基盤となる。硫黄循環に関わる微生物間の相互作用が温度の変動によりどのような影響を受けているのかを明らかにすることで、近年の地球温暖化による嫌気環境の拡大への影響が評価できる点で意義がある。
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