研究課題/領域番号 |
24870002
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松波 雅俊 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 博士研究員 (60632635)
|
研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
|
キーワード | バイオインフォマティクス / 生態発生学 / 表現型可塑性 / 両生類 / 個体群生態学 / サンショウウオ / RNA-seq / 捕食者・被食者 |
研究概要 |
本研究では、同一のゲノム情報をもつにも関わらず、環境の変化に応じて表現型を変化させる表現型可塑性についての解析をおこなった。北海道に生息する有尾両生類であるエゾサンショウウオ(Hynobius retardatus)の幼生は、被食者であるカエル幼生・捕食者であるヤゴの存在や個体群密度に応じて、明瞭な表現型可塑性を示す。本研究では、このエゾサンショウウオをモデルとして、表現型可塑性の分子基盤を解明することを目的とする。 今年度は上記の目的を達成するために、生態学的な野外におけるサンプルの採集から、トランスクリプトーム解析まで一通りの実験をおこなった。まず、サンプルとなる卵を入手した。道内各所をまわり、多くのサンショウウオ卵を採集した。採集した卵を孵化させ、実験室内で異なる環境を再現し飼育することで表現型多型を誘導した。誘導にはエゾサンショウウオと関係の深いヤゴ(捕食者)とオタマジャクシ(被食者)の2 つの生物を用いた。外敵から身を守る外鰓・尻尾の発達した防御型を誘導するときはヤゴと共存させて飼育し、捕食に有利な表現型である頭でっかち型を誘導するときには、オタマジャクシと共存させて飼育した。このほかにエゾサンショウウオのみで飼育することで通常の表現型をもつ個体も再現した。得られた表現型を用いて、次世代シークエンサーによる遺伝子発現解析をおこなった。各組織・時間ごとの遺伝子発現の変動を調べることで、多型の要因となる候補遺伝子を絞り込んだ。これにより、形態変化の要因となる候補遺伝子が同定された。ここまでの結果を取りまとめ、学会発表をおこなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究の結果、エゾサンショウウオの表現型可塑性を引き起こす原因となる候補遺伝子が明らかになった。従って、実験は順調に進行していると言える。しかし、生物の遺伝子発現は個体によるばらつきが大きく、繰り返し実験を行い、統計的に有意に発現量が変動している遺伝子を明らかにする必要がある。今後、この繰り返し実験をおこない、研究成果の論文化を目指す予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、次世代シークエンサーのテストランをおこなったので、来年度はこの結果をさらに拡張し、形態変化の要因となる候補遺伝子の同定を目指す。まず、可塑性を引き起こす可能性が高い候補遺伝子を明らかにする。次に、発展著しいゲノム編集実験技術を活用することで、候補遺伝子の機能を解析し、可塑性の原因となる遺伝子を解明する。併せて集団間で遺伝子配列を比較することで、表現型可塑性の進化的起源について推定する。 現時点では、トランスクリプトーム解析の繰り返しがないので、繰り返し実験をおこない、統計的に有意な発現量の差を持つ遺伝子を選別する。この実験を通して、可塑性の原因となる可能性がより高い候補遺伝子を絞り、以降の機能解析実験に使用する。近年、非モデル生物において簡便に標的遺伝子を改変する技術として、ゲノム編集技術が注目されている。本研究では、この技術を利用して候補遺伝子の機能を解析する予定である。さらに絞られた候補遺伝子の機能に応じて、ホルモン注射などの実験も遂行する。これにより候補遺伝子の機能が明らかになり、表現型可塑性の分子基盤が解明されることが期待される。 エゾサンショウウオの表現型可塑性がどのようにして獲得され、進化してきたかは未だ不明な点が多い。本研究では、その過程を明らかにするために、特に顕著な可塑性を示す襟裳集団と可塑性を示しにくい野幌集団を比較することで表現型可塑性の獲得過程とその進化に迫る。まず、誘導実験を通して経時的なRNAのサンプリングをおこない、各集団間で可塑性の原因となる遺伝子の発現変動を調べ、集団間・集団内で遺伝子配列にどのように変異が蓄積されているかを調べる。これらの解析結果を解釈することで、可塑性がどのように獲得され、集団内で維持されているかを推定する。
|