研究課題
H+,K+-ATPaseの(Rb+)E2~AlF中間体の構造解析、及びK+結合構造やカチオン非結合状態の構造との比較を行うことによって、膜貫通領域のカチオン結合サイトにRb+が1つだけ結合した構造を得ることができました。この結果は放射性Rb+閉塞量の測定によっても検証され、得られた構造が酸性条件下においてH+とK+を1:1で輸送する状態を捉えていることが強く示唆されました。HKATPaseが胃の酸性状態において作り出す濃度勾配はpH差にして6、即ち100万倍のH+濃度勾配が形成されていることになりますが、これまで報告されていた、一分子のATP加水分解当たりH+:K+=2:2の対向輸送では、100万倍の濃度勾配を作り出すことは熱力学的に不可能です。HKATPaseは従って、輸送化学量論を2:2から1:1へと変化させることでこれを達成しているということを裏付ける結果が得られました。この構造機能解析の結果は論文として報告しました(Abe et al., 2012, PNAS, 109, 18401)。
2: おおむね順調に進展している
Rb+及びK+結合状態の構造解析、及び生化学的な実験によって機能的な側面を証明することで、H+,K+-ATPaseに関する30年以上未解決であった輸送化学量論についての問題に一つの解答を与えることができたのは、非常に大きな成果であったと言える(Abe et al., 2012, PNAS, 109, 18401)。高分解能構造解析については、現在のことろ分解能向上につながる手法についての論文を作成中であり、またデータ収集を進めている段階である。昆虫培養細胞発現系の構築では、定法に則った発現方法では良好な結果が得られなかった。しかしながら、豚胃由来のサンプルを60℃以上の熱安定性を以て可溶化精製できる方法を確立したので、発現の問題がクリアできれば計画が大きく進展すると考えている。
高分解能構造解析については、分解能を制限する要因を洗い出し、サンプル調整法を最適化してデータを収集しているが、今後はデータ収集を完了すると共に、異なる形態を持った二次元結晶を用いた検討を行っていきたい。またフィルムではなくDirect detection cameraを記録媒体として使用することで分解能の向上が期待できるために、この新たな検出器を用いたデータ収集を検討している。発現精製系の構築において、60℃以上の熱安定性を以て可溶化精製できる系を確立したので、問題である発現条件の検討に重点を置いて進める予定である。コドンの最適化やGFPタグ導入位置、糖鎖付加サイトの有無によって幾つかのコンストラクトを設計し、これを組み合わせた複合体の発現を検討していく。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Nat Commun
巻: 4 ページ: 1766
10.1038/ncomms2731
Proc Natl Acad Sci U S A
巻: 109 ページ: 18401-18406
10.1073/pnas
http://www.cespi.nagoya-u.ac.jp/