研究概要 |
本研究課題は、電子線結晶学による構造解析を柱とした、胃プロトンポンプ H+,K+-ATPaseの駆動によって作り出されるpH1(細胞内外で100万倍のH+濃度勾配)という胃内部での高い酸性環境を作り出す作動機構の解明である。 前年度に、電子線結晶学によって輸送イオンが結合した状態の構造解析を達成したが(Abe K. et al., 2012, PNAS)、この構造解析を裏付ける為に、当該年度はRb+を用いた輸送イオン閉塞量の測定及び反応速度論的な解析を行った。得られた結果は昨年度の構造解析の結果と併せて、学会にて発表した。 また、分子機構のより詳細な構造学的理解の為には、分解能の向上と立体構造解析の効率化が不可欠であり、そのような観点から、電子線結晶学の為のサンプル調整法の改良について行った。H+,K+-ATPaseの二次元結晶は非常に脆く、サンプル調整時の乾燥やこれに伴う塩濃度の変化によって容易に崩壊する。カーボンサンドウィッチ法と呼ばれる、二枚の薄いカーボン膜の間に二次元結晶を挟むことで、急速な乾燥が抑えられ、分解能が向上することが示された。また、電子顕微鏡特有の傾斜像撮影時に起こるcharge-induced image shiftという現象が劇的に軽減され効率的なデータ収集が可能になったことを示した。この方法は、H+,K+-ATPase作動機構理解の為の構造解析になくてはならない手法であり、また同様に他の親水性領域を多く含む膜タンパク質の二次元結晶にも応用可能である。この結果は論文として発表した(Yan F. and Abe K. et al., 2013, Microscopy)。
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