研究課題/領域番号 |
24870019
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小沼 健 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30632103)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | オタマボヤ / トランスポゾン / 近交系 |
研究概要 |
脊索動物であるワカレオタマボヤ Oikopleura dioica は、5日という生活環や、細胞数の少なさ、ゲノム情報が整備されていることなど、多くの利点を持つ。オタマボヤを発生学の新しいモデル生物として開発するため、H24年度から、遺伝学的な方法論の導入に着手した。進捗状況を以下に示す。 (1) トランスポゾンの検討: トランスジェニック動物の作製を目的として、トランスポゾンを用いた遺伝子導入を試みた。様々な細胞で実用的であることが実証されているトランスポゾンを7種類集め、その標的配列の内部にレポーター遺伝子を組み込んだベクター、および転移酵素をコードするmRNAの合成を完了した。これらをオタマボヤ卵巣に注入して、生まれた卵に取り込ませ、レポーターの発現が見られる条件を整えた。しかし、生殖系列にレポーター遺伝子が取り込まれたF1個体を得ることはできなかった。このため、トランスポゾンの活性を検討する必要を感じ、切り出し活性を調べるための定量系を確立し、現在スクリーニングを進めている。 (2) TALENの導入: 近年、人口ヌクレアーゼを用いてゲノムの特定の部位を切断し、その後の相同組み換えにより遺伝子導入を行う方法が報告されている。そこで、ヌクレアーゼの一つであるTALENを取り入れ、遺伝子導入を試みている。 (3) 精巣特異的なヒストン遺伝子群の解析: 生殖細胞で転移酵素を発現させるため、精巣特異的なヒストン遺伝子に着目し、その発現制御領域の単離を開始した。日本産のオタマボヤからcDNA配列を入手し、それらの遺伝子が精巣で発現していることを確認した。 (4) 近交系の作製: 変異体形成を行う上で、純系があることが望ましい。そこで日本産のオタマボヤから、近交系の作製に取り組んだ。飼育方法を改良し、順調に近親交配ができるようになった。現在11世代目まで作製が進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ワカレオタマボヤに発生遺伝学的な方法論を導入し、有用な実験動物として確立することを目指している。具体的な目的は2つあり、(1)トランスジェニック個体を作製する遺伝子導入の方法論の確立と、(2)発生の変異体を作製するための方法論の確立である。 (1)のトランスジェニック個体の作製については、トランスポゾンを用いた遺伝子導入法の開発に取り組んだ。トランスポゾンを7種類取り入れ、スクリーニングを進めている。レポーターを組み込んだベクターの作製、転移酵素mRNAの作製、それらの卵および胚への注入方法は予備検討を終えて、順調に進められる状態になった。また1種類のトランスポゾンについては、PCRにより切り出しを示す結果を得ている。ただし、ゲノムへ遺伝子導入されたトランスジェニック個体の作製は現在のところ成功していない。 そのため、遺伝子導入をする前に、切り出し活性をもつトランスポゾンを定量的にスクリーニングする必要性を痛感し、そのための定量系として、大腸菌のコロニー形成を指標にしたアッセイを作製した。予備検討の結果、バックグラウンドのコロニー数が1/1000程度の、精度・感度ともに十分な実験系を作製できた。今後、この系を活用してスクリーニングを進める。 また、生殖細胞で転移酵素を発現させるため、精巣特異的なヒストン遺伝子に着目して解析をすすめ、日本産のオタマボヤの精巣でこれらの遺伝子が発現することを確認できた。今後、プロモーター配列の取得に取り組む。 (2)の変異体形成については、当初予定していた対処法に従って、トランスポゾン以外の方法を検討した。すなわち、化学物質を使った変異体作製ができるようにするため、純系の確立に取り組んだ。飼育法を改良することで、現在、安定して近親交配が続く体制が整った。まもなく近交系ができると考えられるので、速やかに変異体の作製にも取り組めると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、ワカレオタマボヤへの遺伝子導入・変異体作製の方法論の確立を目指している。当初、カタユウレイボヤなど他の生物で使われているトランスポゾンをもちいた遺伝子導入が有効であると考えていた。しかし従来の方法にしたがって転移酵素のmRNAとレポーター遺伝子の微量注入を行うだけでは、レポーターのトランジェントな発現は検出できるものの、その次世代への伝達、すなわちゲノムへの遺伝子導入は起こらなかった。そのためワカレオタマボヤで確実に活性をもつトランスポゾンを見極める必要が生じた。このような状況をふまえて、今後は (1) ワカレオタマボヤで活性をもつトランスポゾンの定量的なスクリーニングをするとともに、 (2) TALENによる遺伝子導入や、化学物質による変異体作製など、別の方法論の検討の2点を進めて行く。 (1)については、オタマボヤの体内で起きる切り出しを定量する実験系が出来たので、手元にある7種類をはじめとしてスクリーニングを進める。これらが働かなかった場合は、他のトランスポゾンも試し、活性があるものを探しだしていく。 (2) については、遺伝子導入については人口ヌクレアーゼであるTALENを用いたアプローチを、変異体作製については化学物質をもちいた突然変異の導入を進めている。前者については、必要なベクターの作製はほぼ完了したので、今後はオタマボヤ卵巣に注入して、トランスジェニックの作製を試みる。後者については、変異が起きた遺伝子配列を調べるために、純系が必要である。現在、近交系の作製が順調に進んでいるので、確立でき次第、突然変異の導入を行って行く。オタマボヤは精子の凍結保存が可能であることから、オスを変異原物質で処理し、その精子を保存し、野生型と掛け合わせにより変異体のスクリーニングを進める。オタマボヤは世代時間が5日と短いので、それを活用した効率的なスクリーニング体制を整える。
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