短い生活環と少ない細胞数など、多くの利点をもつ脊索動物ワカレオタマボヤを遺伝学的なアプローチが可能なモデル生物として開発することを目指した。昨年度の取り組みを継続し、(1)トランスジェニック個体の作成法の検討と、(2)遺伝子発現の情報収集、(3)変異体作成にむけた準備を進めた。 (1)のトランスジェニック個体の作成については、トランスポゾンによる遺伝子導入と、合成ヌクレアーゼをもちいたノックインに取り組んだ。トランスポゾンを7種類集め、転移酵素のC末端をGFPで標識したmRNAを注入したところ、胚で発現するものは4種類であった。これらを用いて、筋肉特異的プロモーターをもちいたDNAコンストラクトを導入することを試みた。合成ヌクレアーゼについては、mRNAを合成して胚へ注入できる段階には達したが、まだゲノム配列を切断が生じたか不明である。ここまでの取り組みから、オタマボヤはDNAコンストラクトの発現効率が悪く、また外来DNAが発生に有害な場合もあることが分かってきた。幸いなことに、共同研究者の学生が、それを逆手にとった新規の遺伝子機能の抑制方法を見出した(未発表)。今後は、他の遺伝子導入方法を試すことも含め検討を進める。 (2)の遺伝子発現の情報収集については、精巣特異的に発現するヒストンmRNAを4種クローニングした。うち1つは精巣に発現することを確認し、その上流配列の取得も終えている。さらに今後の機能解析やクローニングに備えて、未受精卵と幼生に存在するmRNAのRNAseq解析を行った。データ取得を順調に完了し、現在はBlastの構築を進めている。 (3)変異体作成に備え、近交系の作成に取り組んだ。13世代の近親交配に成功したが、残念ながら飼育状況の変動のため途絶えてしまった。ただ完全な近交系ではなくとも、近親交配を重ね、内在する劣性変異を相当な数取り除くことは可能と判断した。
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