研究課題/領域番号 |
24870022
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
保坂 哲朗 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 特任助教 (50626190)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 生態学 / 植物 / 昆虫 / 進化 / 熱帯雨林 / マレーシア / フタバガキ科 / 国際研究者交流 |
研究概要 |
本研究は、フタバガキ科樹木の種子を繁殖に利用する昆虫が、超年一斉開花型と言われる変動の大きな種子生産に対して、どのように適応してきたのかを進化的・生態的観点から探ることで、一斉開花現象の理解に不可欠なフタバガキ科-種子食昆虫の相互作用系の解明を目的とする。 まず進化的には、種子食昆虫の寄主利用の変遷を明らかにするために、主要な種子食昆虫の一つであるゾウムシ類について分子系統解析を行う。本年度は、そのためのゾウムシのサンプル収集や予備的解析を行った。その結果、採集後10年以上経た乾燥標本からのDNA抽出は非常に困難な一方、採集後間もないサンプルからは足のみでもDNA抽出に成功した。幸運なことに、昨年12月には小規模ながら一斉開花が見られ、ある程度まとまった数のゾウムシを新規に集めることができ、現在はこれらのサンプルを中心に解析を進めている。抽出されたDNAはミトコンドリアDNAのCOI遺伝子や核DNAの18S遺伝子などを用いて系統解析を行う予定である。 また生態的には、種子食ゾウムシが長い非結実期間を幼虫の休眠や成虫の長寿命などで乗り切っていると仮説をたて、その検証を行う。実際に、種子食ゾウムシの幼虫の一部は、種子から積極的に這い出し、土壌中で数ヶ月以上生存することが観察された。これらの幼虫については、DNA解析を行って種同定する準備を整えた。さらに、生きたゾウムシの成虫・幼虫を用いて、これらを継続して飼育することで、ゾウムシの一斉開花への適応戦略解明の鍵となる生態情報(エサ、生存期間、休眠覚醒刺激)の収集を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マレーシア森林研究所の遺伝学研究室の協力を得ることができて、種子食ゾウムシのDNA解析は体制面でも技術面でもおおむね順調に進行中である。ただ、10年以上前に採集したゾウムシの乾燥標本からのDNA抽出はうまく行かず、新鮮なゾウムシDNAサンプルの収集が重要である。幸運なことに、昨年12月には小規模ながら一斉開花が見られ、ある程度まとまった数のゾウムシを新規に集めることができ、現在はこれらのサンプルを中心に解析を進めている。また、生きたゾウムシの成虫・幼虫をサンプリングすることができたので、これらを継続して飼育することで、ゾウムシの一斉開花への適応戦略解明の鍵となる、生態情報の収集を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
1.種子食ゾウムシ類の系統解析:昨年度の小規模一斉開花時にサンプリングした種子食ゾウムシ(主にAlcidodes属)に関して、ミトコンドリアDNAのCOI遺伝子や核DNAの18S遺伝子などを用いて系統解析を行う。また、京都大学やマレーシア森林研究所で保管されている種子食ゾウムシ類のサンプルも含めて、東南アジアのフタバガキ科を寄主とするAlcidodes属の分子系統樹を作成する。さらに、先行研究で明らかにされているフタバガキ科樹木の分子系統樹と合わせることで、共種分化解析を行う。 2.種子食昆虫の生態調査 (1)成虫の寿命の計測:成虫の寿命は、長期間結実しないフタバガキ科の種子を利用する昆虫の適応戦略を理解する上で重要である。昨年度の調査で得られたNanophyes属及びAlcidodes属のゾウムシ成虫に関して、バナナやフタバガキの実生など、それぞれ適当なエサを与えながら生存期間を計測しており、この飼育実験を今年度も継続する。 (2)休眠幼虫の同定および乾燥実験:これまでの調査で、種子食ゾウムシには2ヶ月以内に羽化するグループと1年以上羽化しないグループがあることが分かっている。長期間羽化しないグループは餌の摂食も見られず、休眠している可能性があり、種子食昆虫の一斉開花への適応の鍵を握っていると考えられる。 今後は、昨年度の調査で得られた休眠幼虫(3ヶ月以上羽化せずに残存する幼虫)について、DNA解析を行い、1の結果と合わせて種を同定する。また、生きた休眠幼虫について、その休眠刺激の解明を行う。特に乾燥は、一斉開花の引き金としても注目されているため、実験室での乾燥処理実験により検証を行う。上記の調査で得られた結果は論文にまとめ、Molecular Phylogenetics and Evolution誌やBiology Letter誌に投稿する。
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