多くの生物に共通して見られる発生分化過程では、分化した細胞の増殖や分裂に伴い、母細胞で機能していた分化を担う因子の濃度が娘細胞において低下していくと考えられる。にもかかわらず、発生分化が正確に遂行されるのは、ノイズの多い生物システムの中で、母細胞から娘細胞へと転写の活性化状態などが正しく引き継がれていく何らかのメカニズムが存在するためと考えられる。そこで本研究では、細胞間での遺伝子発現が大きくばらつく変異株を解析することにより、母細胞から娘細胞へと転写の挙動が引き継がれるメカニズムについて詳細に解明することを目的とした。 そこで初年度は、細胞間での遺伝子発現が大きくばらつく変異株のゲノムワイドなスクリーニングを実施した。その結果単離された株について、表現型の原因となった遺伝子の同定に成功した。そのうちの一つの変異株は、ヒストンのメチル化に関わる既知の分子と相同性の高い遺伝子であったため、ヒストン修飾と遺伝子発現のばらつきの関係性についても生化学的手法やライブセルイメージングを用いて検討した。 今後ここで得られた変異株を用いて転写維持機構の理解を進めることで、細胞間での転写のばらつきを自在に操作するための基礎知見を得られると期待される。転写の細胞間でのばらつきの増加が、癌細胞の薬剤耐性獲得に関わるという報告があることから、今後期待される転写のばらつきを制御する技術は、医療面における応用へ発展する可能性がある。
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