本研究では、オオヒメグモ初期胚において細胞がどのように位置と向きを認識するのか、そして前後軸・背腹軸に沿ったパターンの形成と細胞運動がどのように関係しているかを解析し、これらを協調制御する分子機構の解明を目指している。予備的な実験でHhシグナルを細胞内に伝えるsmo遺伝子の発現を局所的に抑制したところ、細胞の位置と向きの認識が異常となっている可能性を示唆する結果を得ていたので、この結果を手がかりに研究を進めている。1) smoの抑制クローンと周囲の細胞の振る舞いの違いを可視化するために、卵への2段階の注射法を開発した。16細胞期のひとつの割球に蛍光色素標識デキストランを注入し、1-2回の細胞分裂の後に二本鎖RNAとともに異なる蛍光色素で標識したデキストランを注入することで、抑制クローンと周りの細胞を標識できた。さらにクモ胚における多重蛍光in situ法の確立にも成功した(論文準備中)。これら二つの技術とライブ観察の組み合わせで、細胞の振る舞いの観察と遺伝子発現パターンへの影響を同一胚で解析可能となった。2) Tal effectorのシステムを利用した異所的発現系の開発を目指し、hh遺伝子の上流配列のクローニングと塩基配列決定を行い、上流配列から2カ所の標的配列を選択し、それぞれの配列を認識する2種類のTal effectorを作製した。Tal effectorのmRNAを卵に微量注入したが、今のところ明らかな効果は得られていない。3) smo ノックダウン胚で発現量が変化する遺伝子の探索のために、ノックダウン胚と無処理胚の胚帯変換開始期のmRNAのプロファイルの違いの解析を計画している。ゲノム情報は遺伝子発現量の差異を解析するための良い指標となると考え、新たに所属機関に導入された次世代シーケンサーを用いてゲノム解読を行った。
|