本研究ではオオヒメグモ初期胚において細胞がどのように位置と向きを認識するのか、そして前後軸・背腹軸に沿ったパターンの形成と細胞運動がどのように関係しているかを解析し、これらを協調制御する分子機構の解明を目指して研究を行った。予備的な実験で、ヘッジホッグシグナルを細胞内に伝えるsmo遺伝子の発現を局所的に抑制したところ、細胞の位置と向きの認識が異常となっている可能性を示唆する結果を得ていた。そこでヘッジホッグシグナルにより発現制御を受ける遺伝子がパターン形成や細胞運動の制御に関わっている可能性を考え、本年度は、ヘッジホッグのparental RNA干渉胚と正常胚において発現量に変化が見られる遺伝子を探索する方法を開発した。1)RNA-seq法の確立。オオヒメグモ胚50個程度からpolyA+RNAを抽出し、RNA-seqライブラリーを作製、次世代シーケンサーMiSeqによりシーケンスを決定した。ライブラリーをリアルタイムPCRにより定量することでMiSeq一度のランで2500万程のクローンの解読が可能となった。2)RNA干渉との組み合せ。二本鎖RNA注入前にうまれた胚とRNA干渉効果が現れてからうまれた胚からRNA-seqライブラリーを作製し、同一個体に由来する胚における発現情報を得ることに成功した。得られたリードの配列情報をcDNAやESTの配列情報に対してマッピングした結果、ヘッジホッグ自身や、ヘッジホッグにより発現制御を受けていることが既に分かっている遺伝子の発現が確かに抑制されていることが確認でき、この方法が新たな標的遺伝子の探索に有効であることが分かった。3)ゲノムワイドな解析への展開。RNA-seqにより得られた情報を解読が進行しているオオヒメグモのゲノム情報に対してマッピングを行った。ここから遺伝子のアノテーションが可能となり、ゲノムワイドな遺伝子探索の基盤作りができた。パターン形成と細胞運動を制御する具体的な分子機構の解明への足がかりができた。
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