研究概要 |
幼若ホルモン生合成を抑制的に制御するペプチドホルモンであるshort neuropeptide F (sNPF), Allatostatin-C (AST-C)の作用機構を検証するために、幼若ホルモン生合成に関わる酵素群への影響を調べた。幼若ホルモン生合成の経路は、前期経路(メバロン酸合成経路)と後期経路に分けられる。そこでsNPFまたはAST-Cの存在下でアラタ体(CA)の培養を行い、前期経路を構成する全ての酵素遺伝子と、後期経路の最終段階を触媒するJH acid O-methyl transferase (JHAMT)の発現量の変化を調べた。その結果、sNPFは前期経路のMevalonate kinaseの発現を強く抑制し、またHMG-CoA reductaseの発現も抑制した。一方で、AST-CはMevalonate kinaseとIsopentenyl diphosphate isomeraseおよびHMG-CoA reductaseの発現を抑制した。これまで、AST-Cは幼若ホルモン生合成において基質の取り込みを阻害すると考えられていたが、本申請研究によって酵素遺伝子を転写レベルで制御していることが明らかになった。 加えて、成虫期におけるAllatotropin (AT) の作用についての検証も行った。AT はチョウ目において、成虫メスのアラタ体においてのみ JH生合成を促進することが知られている。そこで羽化直後のメスから側心体(CC)-CA-食道(Oe)複合体、CA-Oe複合体及びアラタ体を摘出しATを作用させたところ、CC-CA-Oe及びCA-OeでJH合成が抑制された。一方、羽化1日前のCC-CA-Oe、CA-Oe及びアラタ体単独に対してATを作用させたところ、羽化直後とは異なり、側心体が連結した状態のCC-CA-OeでのみでJH合成活性の抑制がみられた。このことから、カイコにおいては他のチョウ目昆虫とは異なりATはJH合成抑制作用を持つこと、またその作用機構は発生段階で異なることが明らかになった。このようにJH生合成は発生段階に応じて種々のペプチドホルモンにより制御されていることを明らかにできた。
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