研究概要 |
循環型社会の構築のためにバイオマスの有効利用が求められている。これまでの研究成果から木材セルロースへの TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル)触媒酸化と軽微な解繊処理により得られる TEMPO 酸化セルロースナノフィブリル(TOCN)から透明で酸素バリア性を有するフィルムが調製できることを見出した。本研究ではTOCNフィルムのさまざまなガスに対する透過性を解析し気体分離機能を探り、フィルムの調製条件に対する各気体の透過性を解析することで環境対応型の新規ガスバリア・気体分離材料への応用に向けた基礎的知見の蓄積を進めることを目的とした。TOCN 表面のカルボキシル基を金属塩型から酸型へと変えたTOCN フィルムを調製し、様々なガス(酸素、水素、窒素、二酸化炭素)に対する透過性を分析したところ、酸型、金属塩型により異なるガス透過性を示すことが示された。特に水素に対する透過性に顕著な違いが見られ、酸型のTOCNフィルムが優れた水素/窒素分離係数を有することが示された。またカルボキシル基の対イオン交換を様々な手法で行うことにより、このようなガス透過性の違いが金属塩の種類に寄らず、フィルム中でのナノフィブリルの配列構造に起因することが示唆された。この結果によりTOCNフィルムがガスバリア材としてだけではなく気体分離膜としての可能性を秘めていることが明らかになった。また、本研究費で購入した精密天秤により、フィルムの含水率変化ヒステリシスを解析し、乾燥時間がナノフィブリルの配列構造に影響することを示唆する結果を得た。以上のことから、TOCNの対イオン交換や乾燥時間の制御によりガス透過性の制御が可能であることが明らかとなり、TOCNのガスバリア・気体分離材料への応用に向けた基礎的知見が得られた。以上の結果を国内外の学会で発表し、国際的な科学雑誌に投稿した。
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