研究課題/領域番号 |
24880014
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村上 晋 東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (10636757)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | インフルエンザ / non-coding RNA |
研究概要 |
インフルエンザウイルスの粒子内に宿主由来低分子ノンコーディングRNA (sncRNA)が取り込まれるかどうかわかっていない。また、その機能に関しては全くの未知である。そこで、本年度では、ウイルス粒子内に取り込まれた宿主由来sncRNAの機能を解析するための前段階として、次世代シークエンサーを用いて粒子内に取り込まれた宿主由来低分子のncRNA網羅的に同定することを目的とした。 発育鶏卵にA/Puerto Rico/8/1934(PR8)株を感染させ、培養後、漿尿液を回収し、ウイルス粒子をショ糖密度勾配超遠心法によって精製した。精製ウイルス粒子から200塩基以下のRNAを抽出し、5’および3’にアダプターを付加した後、逆転写によってcDNAライブラリーを作製した。さらにPCR法を用いてcDNAライブラリーを増幅した。作製したcDNAライブラリーの配列は次世代シークエンサーを用いて解析した。その結果、ウイルスのゲノムRNAの5’および3’末端の配列、リボソーマルRNA(28S、18S、5.8S、5S)の断片配列、およびtRNAが検出された。全体リード数に占める割合はそれぞれ29.6%、13.5%、11.8%であった。特にtRNA-Glyは全体のリード数の6.6%を占めており、他の低分子RNAよりもリード数が多かった。さらにノーザンブロット法によっても、tRNA-Glyが粒子内に取り込まれていることを確認した。Vero細胞で増殖させたPR8株でも同様の結果が得られた。 ウイルス粒子内に取り込まれていることが確認されたtRNAやrRNAの断片がウイルス増殖に与える影響およびその機能は不明である。これらのsncRNAがインフルエンザウイルスの増殖環のどのステップに作用するのかを強制発現系などを用いて、今後詳細に解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画は、1.インフルエンザウイルス粒子内に取り込まれる低分子ncRNAの定量、2.インフルエンザウイルス粒子内に選択的に取り込まれる低分子ncRNAの解析、3.次世代シークエンサーで読まれたデーターの解析および選択的に取り込まれる低分子ncRNAの同定であった。 1についてはインフルエンザウイルス研究によって最もよく用いられるイヌ腎上皮細胞(MDCK)細胞に代表的な実験室株であるA/Puerto Rico/8/1934(PR8)を感染させ、培養上清に含まれるウイルス粒子をショ糖密度勾配超遠心法によって精製し、ゲノムRNAを回収し、cDNA化したのち次世代シークエンサーにかける。結果を解析し、低分子ncRNAが取り込まれていること、およびその量を調べることを目的としていた。今回MDCK細胞の代わりに発育鶏卵を用いたが、インフルエンザウイルス粒子が精製できたことそして粒子内に取り込まれる低分子ncRNAの種類およびその割合を求めることができたことから目的を達成できたと考えている。 2については発育鶏卵およびVero細胞で同様の結果が得られたこと、そして細胞内と粒子内の低分子ncRNAの存在比をノーザンブロット法により定量出来たことから、この目的についても達成できたと考えている。 そして3については得られたデータを解析した結果、おもにウイルスゲノムRNA、リボソーマルRNA、tRNAが取り込まれていること、そしてその割合も明らかにすることが出来たことから、目的を達成できたと考えている。 以上1、2、3すべて目的を達成できたことから、研究は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ここまで順調に研究が進んでいることから、当初の計画通りに研究をすすめることとする。 まず同定した低分子ncRNAがインフルエンザウイルス増殖に与える影響をしらべる。同定した低分子ncRNAがインフルエンザウイルス増殖に与える影響を以下の方法で調べる。①同定した低分子ncRNAを合成し、細胞にトランスフェクションする。②同定した低分子ncRNAのアンチセンス鎖をトランスフェクションする。③同定した低分子ncRNAの数か所に変異を導入したRNAを合成し、ドミナントネガティブ効果を調べる。①~③それぞれで、ウイルスの増殖カイネティクスを調べ、ウイルスの増殖に影響を与える低分子ncRNAを同定する。 次に相互作用するインフルエンザウイルス構成物の決定する。ウイルスの増殖に影響を与える低分子ncRNAがどのウイルス構成物と相互作用するか決定する。ウイルスタンパク質と相互作用するかどうか調べるために、ウイルスタンパク質に対する抗体で免疫沈降し、共沈してきた低分子ncRNAをノーザンブロットで検出する。またウイルスのゲノムと核タンパク質(NP)・ポリメラーゼの複合体(RNP)と相互作用する場合も考えられるが、この場合は超遠心によってRNPを精製し、その画分に同定したncRNAが含まれるかノーザンブロットにて検出する。相互作用するウイルス構成物が決まった後には、その構成物によってその影響を調べる。例えば、ポリメラーゼと相互作用することがわかった場合は、ウイルスゲノム複製、あるいは転写への影響などを調べる。RNPに相互作用することがわかった場合は、RNPの核から細胞膜直下への輸送の影響やゲノムパッケージング効率を、NPに対する蛍光抗体顕微鏡法や精製ウイルス粒子内のゲノムRNAをノーザンブロットで定量し調べる。
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