現在、オオムギで形質転換可能な品種は「Golden Promise(GP)」に限られており(Harwood 2012)、この制限要因が「GP」以外の品種・系統に特異的な形質遺伝子の効率的な解析を妨げている。我々は、品種・系統に依存せず、しかも高効率で簡便なオオムギ形質転換系の確立を目標として、オオムギ形質転換の成否を決定する遺伝的因子の解明に取り組んでいる。本研究では、オオムギの異なる品種・組織由来のカルスの性状を分析するとともに、それらに内在する植物ホルモンを微量生体物質・植物ホルモン解析装置(LC/MS/MS)によって解析した。植物ホルモンは、植物のカルスの増殖や再分化に重要な物質であり、形質転換の成否に関わる因子のひとつと考えられる。また、培養条件下における「GP」特有の発現遺伝子を明らかにするために、増殖過程や再分化条件におけるカルスの網羅的遺伝子発現解析(マイクロアレイ解析)を行った。 カルスにおける植物ホルモン分析を行った結果、インドール酢酸(オーキシン)の含有量は、「GP」の未熟胚由来のカルスで最も高い値を示した。インドール酢酸含有量と再分化率は有意な正の相関が見られた。一方、形質転換が困難な品種「はるな二条」の未熟胚由来のカルスでアブシジン酸が、同「Morex」由来のカルスでサリチル酸が多く検出された。これらの植物ホルモンは、カルスの再分化に負の影響を及ぼしているものと予想される。 一方、マイクロアレイによる遺伝子発現解析の結果、「GP」と「はるな二条」間での発現量の差が2倍以上の遺伝子が合計4308個検出された。「GP」は、カルスの増殖や再分化能が「はるな二条」に比べて優れており、これらの遺伝子の一部はその表現型に関与する遺伝子であると推測される。
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