本研究は7型コラーゲンの変異で発症する劣性栄養障害型表皮水疱症におけるエナメル質形成不全の有無の確認とその発症機構の解明を目的として研究を実施した。劣性栄養障害型表皮水疱症モデルマウスの実験に先立ち、同疾患患者でのエナメル質形成不全の有無を確認するため、患者抜去歯のエナメル質を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、エナメル小柱の走行と配列が乱れていることが確認された。さらに本現象はモデルマウスでも同様の異常が観察された。よって、エナメル質形成期における7型コラーゲンの役割を検討するため、野生型マウスの切歯歯胚を観察したところ、切歯歯胚のエナメル芽細胞発生初期において、7型コラーゲンの発現を免疫染色下に確認した。さらに透過型電子顕微鏡下でもエナメル芽細胞と前象牙芽細胞間に7型コラーゲンから構成される係留線維を確認し、モデルマウスではこれらの消失を確認した。また、モデルマウスではエナメル芽細胞からエナメル基質を分泌する器官であるトームス突起の構造が未発達であることが確認された。最後に野生型およびモデルマウスの歯胚やそれぞれの初代培養エナメル芽細胞におけるエナメル質の基質となるエナメルタンパクの発現をReal time PCRにて比較したところ、モデルマウスでの発現の低下が観察された。 以上の結果より7型コラーゲンの欠損に伴い、歯胚基底膜中の構造異常が上皮‐間葉相互作用に影響を及ぼし、歯原性上皮細胞からエナメル芽細胞への分化(特にトームス突起の形成)に障害を起こすと考えられた。これより、エナメル基質の分泌に異常が生じるため、立体構造的に欠陥のあるエナメル質が形成されると考えられ、劣性栄養障害型表皮水疱症患者では、エナメル質の立体構造は正常とは異なり、う蝕が進行しやすい可能性が示唆された。
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