研究概要 |
TP53の変異はヒトの癌の約半数で認められ、その多くは野生型p53の機能を喪失・阻害するだけでなく、新たな機能を獲得(gain-of-function, GOF)している場合があることがわかってきている。本研究では、p53のいわゆるホットスポットのひとつであるコドン248に生じた変異R248QおよびR248Wがヒト口腔扁平上皮癌細胞の悪性形質発現にどのような役割を果たしているのか検討した。酵母を利用したヒトTP53の機能アッセイの結果から、口腔扁平上皮癌細胞株SAS、HSC-4およびCa9-22は、それぞれE336X、R248QおよびR248W変異をもつと同時にLOHを生じていることが明らかとなった。また、E336X変異は野生型p53としての機能を欠くことがレポーターアッセイなどによってわかった。このE336Xを発現するSAS細胞にR248QあるいはR248W発現ベクターを導入し、各変異p53発現細胞の増殖能, 浸潤能, 運動能および接着能を観察した。R248Qを発現させたSAS細胞は、R248W発現細胞と異なり、浸潤能, 運動能および接着能が増強した。一方、いずれの変異p53を発現させても、SAS細胞の増殖能には変化がみられなかった。次に内在性にR248Qを発現しているHSC4細胞およびR248Wを発現しているCa9-22細胞の変異型p53の発現をsiRNAの導入によって抑制し、同様の実験を行った。その結果、p53の発現抑制によってHSC4細胞の浸潤能, 運動能および接着能は低下するが、Ca9-22細胞のそれらは変化しないことがわかった。また、いずれの細胞も変異型p53の発現を抑制されても細胞増殖能には変化がみられなかった。 以上の結果より、R248Q変異p53はヒト口腔癌細胞において高い運動・浸潤能のGOFに働くことが示された。
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