研究課題/領域番号 |
24890014
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
可野 邦行 東北大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (50636404)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | リゾホスファチジン酸 / LPA3 / 迷走神経 |
研究概要 |
本研究は我々が見出したリゾホスファチジン酸(LPA)受容体LPA3の新規生理機能である迷走神経興奮作用の病理的意義の解明を目的とする。これまでに迷走神経の興奮が病態の進行に寄与すると考えられている疾患として、急性冠症候群(ACS)や妊娠高血圧が知られており、またこれらの病態患者の血中でリゾリン脂質の変動が生じていることが明らかになっている。そこで本研究では特にこれらの疾患に着目した研究を行う。 本年度は、冠動脈左前下行枝結紮による心筋梗塞モデル動物を作製し、ヒト病態と同様な血中リゾリン脂質の変動パターンが生じるかどうかを明らかにすることを第一目的とした。そこでまず、心筋梗塞モデルについてラット及びマウスで作製するための手技を新たに取得した。次にラットに対して左冠動脈完全結紮または虚血・再灌流後、心臓血及び末梢血を経時的に採血し、LC-MS/MSを用いてリゾリン脂質を定量した。その結果、ACS患者血液では不飽和リゾリン脂質が顕著に上昇していたのに対して、心筋梗塞モデル動物では各リゾリン脂質は不変あるいはむしろ減少傾向を示すものもあった。一方で、ATX活性はヒト・動物いずれの血液でも大きな変化はなかった。 今回の結果から、ヒトACS患者におけるリゾリン脂質レベルの亢進は、単に心臓が虚血になったためでは無いことが想定された。ACSは虚血性心疾患の総称であるが、その主な特徴として冠動脈中のプラークの破裂、それに伴う血栓形成が挙げられる。アテローム性動脈硬化の病巣部や活性化血小板においてリゾリン脂質の産生が亢進するという報告もあることから、これらがACSにおけるリゾリン脂質産生の要因ではないかと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究に必要な動物モデルの確立は問題なく行えた。また、リゾリン脂質測定系(脂質抽出法およびLC-MS/MS測定系)の改良によって、モデルから採取した血液中のリゾリン脂質解析が安定して行えるようになった。 LPA3 agonist(T13)の創薬ターゲットとしての可能性を示すために、in vivoでの薬理実験が必要であるが、そのためにT13をg単位で準備した。 一方で、ヒトACS患者と同様のリゾリン脂質変動パターンを示すことが期待された心筋梗塞モデルでは、ヒトの結果を反映しない可能性が示唆された。しかしながら、動物モデルにおいては虚血に伴いリゾホスファチジルコリン(LPC)が減少する傾向があり、意義はまだ不明ではあるが、新たな知見である。 また、予定していた様々な部位(虚血部位血液、動脈血・静脈血の区別)からの採血及び解析、妊娠高血圧モデルに関してはまだ行っていないので、次年度、至急解析予定である。
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今後の研究の推進方策 |
予定していた以下の病態モデルに関して、LPA3を介した迷走神経興奮作用の意義について引き続き解析を行っていく。また、次年度は病態モデルLPA3 agonistの治療効果についても精力的に評価を行う。 ①急性心筋梗塞モデル:虚血部位からの採血及びそのリゾリン脂質の解析を行い、そこでもヒト病態と同様の変動パターンを示さないようであれば、このモデルについては内在性のLPA3シグナルと迷走神経の機能に関する検討は行わず、外来性にLPA3 agonistを投与した際の疾患治療または予防効果を検討するために用いていく。一方で、LPCの減少が再現性よく認められるようであれば、LPCを基質とするATXの活性を変動させた場合の疾患の進行を解析する。 ②慢性心筋梗塞モデル:迷走神経興奮による病態の進行抑制が、LPA3 agonistで模倣できるかどうかを検討する。改善傾向が認められた場合は、βブロッカーなどの既存薬との差別化および併用による効果を検討して行く。 ③妊娠高血圧モデル:まずはリゾホスファチジルコリン・リゾホスファチジルセリンリポソーム投与による血栓誘発に伴う妊娠高血圧モデルを用いて解析する。ただし、このモデルが心筋梗塞モデルのように必ずしもヒト病態を模倣しない可能性があるため、アンジオテンシン持続投与モデル等の他の動物モデルの使用も考慮しつつ行う。
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