本年度は心筋梗塞モデル動物に対するLPA3アゴニストの治療効果の評価、血中リゾリン脂質解析、そして新規LPA3アゴニスト・アンタゴニストの探索を行った。 まず、左前下行枝結紮によるマウス心筋梗塞モデルを作製し、これに対してLPA3アゴニストを心室内投与したところ、再灌流後の心筋障害が有意に改善されることを見出した。一方でLPA3KOマウスや後述する新規LPA3アンタゴニスト処置は、梗塞面積を増加させる傾向があった。このことからLPA3シグナルは虚血性心疾患において心保護に働く可能性が示唆された。また同時にLPA3アゴニストが新規治療薬となり得ることが期待された。 次にラット心筋梗塞モデルを用い、血中リゾリン脂質の解析を行った。採血後のサンプル調整の検討と、解析に使用するマススペクトロメトリーの最適化を行うことで前年度と比較してより正確な解析が可能となった。この条件で虚血再灌流後の血漿を解析したところ、LPA、LPE及びLPGといったいくつかのリゾリン脂質で増加傾向が認められた。今後、これらの脂質に関しては、今年度新たに導入予定の高感度マススペクトロメトリーを用い、より詳細な解析を行う予定である。 最後に東北大学に設置されたハイスループットスクリーニング(HTS)機器とLPA3安定発現細胞株を用い、新たなLPA3アゴニスト及びアンタゴニストのスクリーニングを行った。スクリーニング対象化合物は東北大オリジナル化合物及び東大ライブラリーの約2万5000化合物とした。その結果、LPA3選択的なアンタゴニストを新たに見出すと共に、アゴニストについてもヒット化合物を得ることができた。今後、本化合物をリード化合物として最適化するとともに心筋梗塞モデルに対する効果を調べる予定である。
|