有効性の確立した肝線維化治療法は肝移植のみであり、他の治療法の確立が必要である。我々は肝線維化は血小板増加により抑制される事を報告した。また血小板はアデニンヌクレオチドを介し肝星細胞の活性化を抑制し、I型コラーゲン産生を抑制することを報告した。本研究の目的はアデノシンの分子生物学的作用機序の解明と、選択的に肝星細胞に集積するように新たに設計したリポソームを用いて、肝線維化モデル動物において、レチノイン酸修飾アデノシン封入リポソームの肝繊維化抑制効果を明らかにすることとした。 本年度は不死化ヒト肝星細胞株(TWNT-1)に、まずATPを添加し、形態の変化および細胞生存性を確認した。これは血小板による肝星細胞抑制のメカニズムが、血小板から放出されるATPが自然分解しアデノシンになり肝星細胞のアデノシン受容体に作用することが前研究で示唆されていたためである。また将来的にDDSを作成する場合に、ATPであれば、drug delivery systemとしてliposomeに組み込みやすいと考えたからである。結果的にはATPを添加することによる肝星細胞の形態変化、具体的には肝星細胞の活性化の程度を示す紡錘形細胞の減少などの変化を認めることは出来なかった。さらにTWNT-1を3000/well、7000/wellにしたディッシュに0.01から100mMまでの濃度にふったATPを投与しWST-8を測定したものの、有意差は認めなかった。 以上のことは、TWNT-1においては、肝星細胞に存在すると考えられているE-NPTDase、E-NPP、CD73による脱リン酸化作用がなく、ATPが分解されアデノシンに変化しないことが示唆された。
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