研究概要 |
神経障害性疼痛ラットに対するモルヒネの鎮痛効果について行動実験を行ったところ、正常ラットでは十分な鎮痛効果を発揮していたモルヒネが、神経障害性疼痛モデル(SNLモデル)ラットでは、鎮痛効果が減弱していることが明らかとなった。その原因として、脊髄で発痛と鎮痛の双方に関与しているセロトニン(5-HT)の関与が疑われた。免疫組織学的研究からは、モルヒネの腹腔内投与により脊髄後角に投射している延髄吻側腹内側部核(RVM)のc-Fos陽性5-HTニューロンの割合が増加することが明らかとなった。またマイクロダイアライシス法を用いた研究からは、モルヒネ全身投与により、痛み伝達の修飾部位である脊髄後角での5-HTが増加することが明らかとなった。一方、脊髄後角で鎮痛に関与しているノルアドレナリン(NA)はモルヒネ投与後も変化することなく、モルヒネの鎮痛作用においてNAの関与は少ないと考えられた。また、脊髄で増加した5HTが鎮痛、発痛のどちらに関与するのか、5-HT3受容体拮抗薬であるオンダンセトロンを髄腔内に投与したところ、正常ラットではモルヒネの鎮痛効果が減弱し、SNLラットでは鎮痛効果が増加した。また、その他の5-HTレセプターの関与を調べるため、5-HTデプレーターである5,7-dihydroxytryptamineを投与しても、同様の結果が得られた。 以上のことから、全身投与したモルヒネがRVMを刺激し脊髄後角で5-HTを増加させ、正常状態ではそれが鎮痛に、神経障害性疼痛では発痛に働いていることが示唆された。この現象には脊髄の5-HT3受容体が関与しており、5-HT3拮抗薬の併用が神経障害性疼痛の治療に有効である可能性が示された。
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