研究概要 |
①培養細胞内の凝集タンパク質の測定:GFPまたはmNeptune標識した変異Huntingtin exon-1タンパク質(98残基ポリグルタミン鎖を含む)をHela細胞・HEK293T細胞に強制発現させ,細胞内に封入体を形成させた.レーザーラマン顕微分光装置を用いて蛍光標識と共局在する封入体に特徴的なラマンスペクトル波形を検索した.封入体内部で観測されたラマンシフトうち,1012cm-1, 1559cm-1, 1617cm-1の3つのラマンシフトの組み合わせは観測視野内で封入体に特異的であった.伸長ポリグルタミン鎖はβ-sheet構造をとることが知られており,それが不溶性の理由とされる.封入体特異的なラマンシフトの一つ1617cm-1は,β-sheet構造に相当するアミドI結合の分子振動を見ている可能性がある.今回発見したラマンシフトは,生理的な封入体形成過程でのポリグルタミン分子の挙動を解明する上で重要なツールとなりうる. ②ラマンスペクトルに出現する分子振動の推定システムの構築:構造式の定まった任意の分子についてその立体構造予測と分子振動解析を行い,ラマンスペクトルを理論的に予測する計算機システムを構築した.現在200~300原子以下の分子の計算が可能である.これを用いてグルタミンオリゴマーのラマンスペクトル予測を行い,実測結果と比較を行った.グルタミンオリゴマーの理論計算ラマンスペクトルには1617cm-1の振動モードは存在しなかった.この振動モードがグルタミン残基自体でなく,それ以外の分子振動(分子間の水素結合など)に由来する可能性を間接的にサポートする結果である.このような実測結果と計算結果との比較は,分子特異的マーカーとして機能する特徴的なスペクトルが確実に凝集タンパク質に由来することを,物理化学の理論面から保証するための必要不可欠な過程である.
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