研究課題/領域番号 |
24890048
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
苅谷 嘉顕 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (20633168)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 骨代謝 / 骨細胞 / 破骨細胞活性化 / RANKL / 骨粗鬆症 |
研究概要 |
2011年に破骨細胞分化に中心的に寄与するRANKLは、従来想定されていた骨芽細胞ではなく、骨細胞により産生されることが報告された。そこで本申請研究では、骨細胞におけるRANKL細胞内動態制御を介する、骨粗鬆症新規治療概念創出を目的とした。2012年度は、適切な骨細胞機能評価系の構築、および、骨細胞内RANKL挙動の解明を目指した。 過去の報告に準拠した初代培養骨細胞の二次元培養法では、急速に骨細胞形質が失われ、機能評価系としては不十分であった。そこで、単離した初代培養骨細胞をコラーゲンゲル中に抱埋し三次元培養法し、骨細胞マーカー分子の発現を確認した結果、通常の破骨細胞分化実験等を行う期間である5~7日間は維持されていた。また、骨中に埋没している骨細胞による破骨細胞活性化は、骨細胞の細胞体との接触ではなく、主として架足部との接触が重要であると考えられる。この状況を再現するため、三次元培養した骨細胞の架足のみが通過可能な多孔子膜を介して、破骨前駆細胞と接触させる共培養系を構築した。この系において、強い破骨細胞形成が認められ、適切な骨細胞の機能評価系の構築に成功した。 この培養系を用いて、RANKLが骨細胞内挙動を観察した。その結果、RANKLは、無刺激ではリソソームに局在し、破骨前駆細胞との接触時には、骨細胞架足の接触面に集積することが、共焦点顕微鏡を用いた局在観察等により示唆された。また、従来から指摘されている可溶型RANKLの破骨細胞形成の寄与が極めて小さいことも確認された。RANKLが骨細胞内において破骨前駆細胞との接触刺激依存的に、リソソームから輸送されることが示唆された。 これらの結果から、今後、骨細胞の架足部へ刺激依存的にRANKLが輸送される過程の詳細な分子機構を解明し、骨代謝への影響の評価を行うことで、新規治療標的としての可能性を評価可能と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究実施計画では、骨細胞機能評価のための三次元培養系の確立、基底状態におけるRANKLの骨細胞内局在解析、刺激依存的なRANKLの局在変化の解析、これら局在制御を担う分子機構の解析を計画していた。 骨細胞による破骨細胞分化支は、骨細胞架足部を介して行われることが想定されるが、既存の報告における実験系では、架足部のみならず細胞体による影響を排除できず、生理的な活性を適切できているか不明瞭であった。そこで、我々は、骨細胞架足部による破骨細胞分化を評価可能な、骨細胞の三次元培養系し、多孔子膜を介して破骨前駆細胞と接触させる共培養実験系の構築に成功した。 また、基底状態におけるRANKLの骨細胞内局在に関しては、構築した培養系において、破骨前駆細胞を添加しない状態で、RANKLの局在を共焦点顕微鏡のz軸方向連続撮影を行うことにより、三次元的な局在を観察し、リソソームに大部分が局在していることを見出し、細胞表面でのRANKL発現量が極めて少ないことを見出した。更に、骨細胞におけるRANKLのリソソーム局在にはOPGが必要であることも見出した。 更に、破骨前駆細胞接触刺激におけるRANKL局在変動を解析するため、破骨前駆細胞の代わりに破骨前駆細胞を模倣した表面にRANKを固相化したビーズを添加した培養系におけるリソソーム局在変化を評価した。その結果、ビーズ刺激に伴いリソソーム内容物の放出量が上昇しており、RANKLが刺激損的に細胞表面へと放出されることが、示唆された。これらを制御する分子機構の解析として、予備検討の結果、Rab27エフェクター分子であるSlp-2aの関与する可能性が示唆されている。 こららの研究成果は、当初計画していた内容を充分に包含しており、計画通り研究は進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、当初の経過行く通り、更なる骨細胞内RANKL輸送機構に関するin vitro検討およびin vivoにおける骨細胞内RANKL輸送機構の重要性の検証を行う。具体的には、以下の通りである。 1.RANKL輸送に関与する分子の探索 Rab27a/bおよび、共役し機能するエフェクター分子のうち骨細胞に発現が認められた7分子に関して、その発現抑制がRANKL局在に与える影響を昨年度に構築した三次元培養系にて評価する。予備検討の結果、Slp-2aの関与の可能性を見出しているが、この分子単独による制御ではなく、複数分子が連携しながら局在を制御していると想定されるため、連携分子をも探索する。後のin vivo解析では、骨細胞特異的な各分子の機能抑制は難しいと考えられる。RANKL制御に関して、複数の制御分子を見出すことで、RANKL供給源となり得る他の細胞である骨芽細胞における制御機構と比較し、骨細胞に選択的な分子機構を見出し、in vivoにおける骨細胞内RANKL局在制御の重要性を解析するための知見とする。 2.骨細胞内RANKL局在が骨代謝に与える影響の解析 同定された制御分子に関し、その遺伝子欠失あるいは発現抑制がマウス骨表現型に与える影響を評価する。予備検討により見出されたSlp2-a遺伝子欠損マウスは既に保有しており、血清中RANKL濃度の測定、骨形態計測などの解析を行う。また、Slp2-a以外の分子の解析は、その分子を発現抑制するアデノウィルスを骨髄腔内に投与し、局所in vivoノックダウン系を構築し、上述と同様の解析を行う。また、各マウスに対し、閉経後骨粗鬆症モデルである卵巣摘出を行い、骨量減少速度に与える影響を解析する。 これらの解析を通じて、最終的に骨細胞内におけるRANKL細胞内動態制御が生体レベルで骨代謝に影響を与え得 る機構であることを示す。
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