研究課題/領域番号 |
24890051
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山根 拓実 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (80637314)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 創傷 / ドレッシング材 |
研究概要 |
創傷被覆材(ハイドロサイト)は浸出液を吸収し、創面に保持することを目的としているが、その過程において、浸出液成分がどのように変化しているのかは不明である。本研究では浸出液の成分変化が創傷治癒に及ぼす影響を動物実験にて検討を行った。 9週齢Wistar系雄性ラット5匹を用いて1週間の馴致後、除毛クリームを用いて除毛し、両側腹部に筋膜まで至る全層欠損創を1ヶ所ずつ作製し、ハイドロサイトまたはフィルムドレッシング(対照)を貼付した。創傷作製部位はろっ骨及び大転子からの距離並びに脊柱からの距離を一定にすることで位置を特定し、創の直径は1.5cmとした。毎日創洗浄並びに創部の観察を行い、その後新しいドレッシング材を貼付した。創治癒の評価パラメーターとして肉眼的観察を行った後、ゲージを含めて写真撮影し、創面積を測定した。 結果は、フィルムドレッシング貼付側の創面積に比してハイドロサイト貼付側の創面積は有意に縮小した。また、ハイドロサイト貼付側の創では上皮化の促進も観察された。 これらの現象のメカニズムを解明するために我々は、皮膚中ヒアルロナンに着目した。皮膚中ヒアルロナンは、上皮化を促進し、創傷治癒を促進することが報告されている。フィルムドレッシング貼付側の創周囲皮膚に比してハイドロサイト貼付側の創周囲皮膚では、ヒアルロナン合成酵素Has3の遺伝子発現量及びヒアルロナン量が有意に増加した。 したがって、ハイドロサイト貼付によって創周囲皮膚のヒアルロナン合成が促進し、このことが創傷治癒を助長させた可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者はこれまでに、フィルムドレッシング貼付側の創面積に比してハイドロサイト貼付側の創面積は有意に縮小することを報告した。さらに、申請者は上皮化を促進し、創傷治癒を促進することが報告されている皮膚中ヒアルロナン合成がフィルムドレッシング貼付側の創周囲皮膚に比してハイドロサイト貼付側の創周囲皮膚で有意に増加する可能性を報告した。ヒアルロナン合成酵素Has3の遺伝子発現上昇を引き起こす浸出液中の成分は現在検討中であるため、本研究課題の当初研究目的の達成度はやや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果より、ハイドロサイト貼付側の創周囲皮膚では浸出液の成分変化がヒアルロナン合成を促進し、創治癒を助長している可能性が示唆された。 このことから我々は、(I)創傷治癒を促進する浸出液中の分子が創に残存している可能性及び(II)創傷治癒を阻害する浸出液中の分子がハイドロサイトに移行している可能性の2つ仮説を導きだした。 今後の研究の推進方策としては、ハイドロサイト貼付によるヒアルロナン合成酵素Has3の遺伝子発現促進メカニズムを解明する。(I)の仮説に着目し、Has3のプロモーター上に存在する転写因子の阻害剤をラットのハイドロサイト貼付側の創に添加し、阻害剤添加なしのハイドロサイト貼付側の創に対し創傷治癒が遅延することを証明する。 また、Has3の遺伝子発現を促進している浸出液中の成分をサイトカインアレイを用いて 同定する。9週齢Wistar系雄性ラット5匹を用いて両側腹部に筋膜まで至る全層欠損創を1ヶ所ずつ作製し、ハイドロサイトまたはフィルムドレッシング(対照)を貼付する。フィルムドレッシング及びハイドロサイトを貼付した創面上の浸出液を回収し、サンプルとする。フィルムドレッシング貼付側の浸出液に比して、ハイドロサイト貼付側の浸出液で増加した分子は、ハイドロサイトに吸収されず創面に残存していると考えられる。フィルムドレッシング貼付側の浸出液に比して、ハイドロサイト貼付側の浸出液で減少した分子は、ハイドロサイトに吸収される可能性のある分子と考えられる。
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