ジアミド型化合物フルベンジアミドは、リアノジン受容体(RyR)を標的とし、チョウ目昆虫のみに選択的に高い殺虫活性を示す農薬である。しかし、チョウ目RyRに対するフルベンジアミドの高い選択性における分子・構造生物学的基盤は未解明である。本研究では、フルベンジアミドにおけるチョウ目 (カイコ) 昆虫RyR選択的結合機構の解明を目的とし、以下の項目について明らかにする。(1)ケミカルバイオロジー的手法を用いた結合部位の特定(2)カイコRyRとフルベンジアミド非感受性RyRとのキメラによる結合部位の確認(3)カルシウムイメージングとアラニンスキャニングによる結合に重要なアミノ酸残基の同定(4)フルベンジアミド結合部位周辺タンパク質の結晶化 本研究の成果は、昆虫種特異的な新しい農薬の開発につながるだけでなく、RyRの動作機構の解明や新しい医薬の開発にも期待できる。本年度は以下の項目の実験を計画した。 ・光アフィニティーラベル化を用いた結合領域の同定 RyRは約5000アミノ酸から構成される非常に大きな膜タンパク質であるため、扱いが非常に難しい。そこで、ドメインごとにタンパク質を作製することを試みた。フルベンジアミドの結合に関与していると推測されているN末端領域およびDR1領域について、大腸菌発現用のプラスミドを構築した。様々なコンストラクトおよび、培養条件を検討した結果、カイコRyRのDR1領域について、大腸菌を用いて大量発現に成功した。また、アフィニティークロマトグラフィーおよび、陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過カラムにより、カイコRyRのDR1領域の精製タンパク質を得ることが出来た。今後は、光標識部位とビオチン構造を有するフルベンジアミド誘導体(フルベンジアミドPP)を利用したアビジンビーズによるプルダウンにより、フルベンジアミドとDR1領域の結合を評価していく。
|