研究課題/領域番号 |
24890097
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
青木 友浩 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40633144)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 脳動脈瘤 / くも膜下出血 / 平滑筋細胞 / 炎症反応 / プロスタグランディン |
研究概要 |
致死的なくも膜下出血の原因疾患でありかつ有病率も高いことから社会的に重要な疾患である脳動脈瘤を対象として、その増大の分子機構の解明と実験的知見に基づく新規創薬を目指し研究を計画した。平成24年度には、血行力学的ストレス負荷に基づく脳動脈瘤モデル動物を使用し、瘤の破裂すなわちくも膜下出血発症と密接に関係する脳動脈瘤壁中膜平滑筋細胞の脱落機構に関し以下に列挙する5点を明らかとした。 1.脳動脈瘤モデル動物において脳動脈瘤誘発術後、中膜平滑筋層は経時的に菲薄化する。また、菲薄化に伴い中膜に存在する平滑筋細胞も進行性に脱落していく。2.中膜平滑筋細胞の脱落の機序としてアポトーシスによる細胞死の可能性を考え、Tunnel染色等により検討した。しかし観察されるアポトーシス陽性細胞は極少数であり、中膜平滑筋細胞脱落の主要な要因ではないと示唆された。3.電子顕微鏡による解析の結果、脳動脈瘤壁では中膜平滑筋細胞は著明に進展をされており形態学上一部脱分化を示唆する所見を呈していた。ただし、細胞外基質の形態については脳血管壁の正常部位と明らかな差異を指摘できなかった。4.脳動脈瘤壁で中膜菲薄化が生じる時期にはすでにマクロファージ浸潤等炎症反応が生じていた。5.選択的プロスタグランディン受容体拮抗薬によりモデル動物に誘発した脳動脈瘤壁の中膜菲薄化が促進された。また、受容体拮抗薬投与群においてマクロファージ浸潤等の血管壁の炎症反応が著明に亢進していた。 以上の本年度の検討から、脳動脈瘤中膜平滑筋脱落には脳血管壁に生じる炎症反応が寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、研究計画書に従い脳動脈瘤壁での中膜平滑筋細胞の脱落機構につき脳動脈瘤モデル動物を使用し検討を行った。結果、脳動脈瘤壁での中膜平滑筋細胞脱落の時間経過を明らかとする事が出来たと共に、電子顕微鏡解析や分子生物学的解析を駆使し脳動脈瘤壁で生じている炎症反応が中膜平滑筋細胞脱落に寄与していることを示唆する事が出来た。あわせて、プロスタグランディン受容体の脳動脈瘤形成過程での中膜平滑筋細胞保護効果につき受容体拮抗薬を使用し明らかとし、脳動脈瘤増大を抑制するための創薬標的候補分子として位置付ける事が出来た。 以上の点から、本年度はおおむね当初の研究計画通り研究を遂行できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の検討から、脳動脈瘤壁での中膜平滑筋細胞脱落機構につき少なくとも炎症反応が寄与する事は示唆できた。しかし、炎症反応の内でどの経路が最も重要であるかといった点やプロスタグランディン受容体の脳動脈瘤形成過程での中膜平滑筋細胞保護効果の機序の詳細については明らかではない。そのために、平成24年度に施行できなかったモデル動物に誘発した脳動脈瘤壁標本を使用した網羅的解析を通し上記の点につき解明を目指したい。更に、本年度の検討はあくまでモデル動物を使用したものであり、実際今回見出した知見がヒトの脳動脈瘤病変で再現できるかや実際に創薬標的となり得るかについては明らかではない。そのため、次年度はヒトの脳動脈瘤標本も使用しモデル動物での知見がヒト脳動脈瘤にも適応できるか確認する。
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