本検討では、くも膜下出血の原因疾患である脳動脈瘤を対象としその破裂(くも膜下出血発症)に直接寄与すると推定される中膜の菲薄化、平滑筋細胞脱落機構の解析を先に報告した脳動脈瘤モデル動物を使用し行った。まず、脳動脈瘤壁中膜菲薄化は経時的に進行する事を明らかとした。また、菲薄化や中膜平滑筋細胞脱落の機序をプロスタグランジンF2a-FP経路に注目し解析した。結果、選択的FP受容体拮抗薬投与下では脳動脈瘤壁へのマクロファージの浸潤の悪化、炎症反応の亢進がもたらされその結果として脳動脈瘤壁の菲薄化が進行する事が示唆された。合わせて、大動脈でも同様の炎症反応の増悪が生じ弾性板の断裂・壁変性に伴い大動脈解離を来たす事を明らかとした。また、その他中膜の菲薄化に寄与し得る因子として細胞外基質の産生低下、増殖因子の産生低下、中膜平滑筋細胞の細胞死の可能性を考えそれぞれ検討を行うも化合物投与による変動を見出す事はできなかった。さらに、ヒト脳動脈瘤壁への脂肪沈着と瘤壁の退行性変化の関連を示唆する報告を参考に、脳動脈瘤壁への脂肪蓄積と中膜菲薄化の関連につきモデル動物を使用し検討した。結果、脳動脈瘤壁外膜部に限局して脂肪蓄積が検出できる事、脂肪蓄積を有する瘤ではマクロファージ浸潤や中膜の菲薄化が増悪している事さらにマクロファージの浸潤数と中膜菲薄化の間に有意な相関のある事を明らかとした。また、ヒト脳動脈瘤壁に発現している事が報告されているTNF-alphaに注目しモデル動物で解析を行ったところ、病変部でのTNF-alpha含有量が脳動脈瘤形成とともに有意に増加し、その受容体の欠損マウスで炎症反応の減弱とともに脳動脈瘤形成が抑制される事も確認した。 以上の検討より脳動脈瘤壁での中膜の菲薄化は炎症反応の結果もたらされる事が示唆された。また、脳動脈瘤の破裂予防のための治療戦略として抗炎症を提唱する事が出来た。
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