本研究の目的は、造血微小環境の新たなメカニズムを探求することである。Wnt/decorinn発現を介した機構の解析とともに、ヒトにおける造血メカニズムの検討を行う事を重視している。 平成25年度には、ヒト大腿骨頭からコラゲナーゼ処理を施すことで効率よく間葉系幹細胞(MSC) を回収することを明らかにし、その細胞を用いて実験を実施した。ヒト大腿骨頭由来MSCはvitroでの培養での増殖能力は安定しているが、免疫不全NOGマウスに移植を行った系での生着は困難であった。組織標本の解析ではごく微量の生着は確認されており、MSC移植時のキャリアーの選択が重要であると考えられた。vivoでの異所性ヒト骨髄モデルの確立に向け、条件検討を継続することとなった。 また、本研究の実験の過程で、コラゲナーゼ処理により、大腿骨頭からCD34・ESAMを高発現する未知の細胞を単離されることが明らかになった。CD34、ESAMは造血幹細胞と血管内皮細胞の表面抗原マーカーであり、この新規細胞を培養すると、CD31陽性の血管内皮系細胞への分化誘導が可能であることが分かった。血管内皮前駆細胞は、骨髄の造血幹細胞の維持・分化制御に大きな役割を果たしていることが知られている。このESAM陽性細胞が、ヒト骨髄の造血微小環境の未知の造血支持因子である可能性が考えられる。これらの実験成果は、2013年に開催されたヨーロッパ血液学会年次総会で発表した。
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