研究概要 |
【研究の目的】胆道閉鎖症は胆汁排泄障害に伴うIgA分泌低下により腸管粘膜バリアが破綻し、バクテリアルトランスロケーション(BT)を来す可能性がある。一方で大建中湯(DKT)は近年、抗炎症作用などが報告されている。本研究では、ラットを用いて胆道閉鎖症(閉塞性黄疸)におけるBT発生の機序を解明し、さらに抗炎症作用を有する薬剤投与により病態制御が可能か否かを検討し、胆道閉鎖症における病態増悪の予防に繋げることを目的とする。 【これまでの研究成果】Wister系雄性ラット(6週齢,250-300g)を用い、以下の3群(各n=5)に分けた。Group1:control群、Group 2 : 総胆管結紮モデル群、Group 3 :総胆管結紮+ DKT投与群(DKT 300mg/kg/dayを3,7,14日間、経口投与)。Group2,3においては、総胆管を結紮後3,7,14日目にsacrificeを行った。検討項目は、(1)血液検査(T-bil、AST、ALT、ヒアルロン酸、総胆汁酸)、(2)腸間膜リンパ節培養によるBT発生率を評価した。 結果(1) 血液検査では、Group2, 3において、3日後のGPT値、14日後のヒアルロン酸値がGoup3で有意に低値であった。(GPT:463±189vs.247±39U/l,p<0.05 ; ヒアルロン酸:510±415vs.121±243ng/ml,p<0.05) 結果(2)BT発生率は、control群では0%, Group2では3,7,14日後いずれの群でも100%であったのに対して、Group3では3日後100%,7日後20%,14日後0%と時間依存的に有意に抑制された(7,14日後でp<0.01)。このように、DKT投与により胆道閉鎖症モデルにおけるBT発生が有意に抑制され、胆道閉鎖症におけるBT予防にDKTが有用である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度 1) 閉塞性黄疸モデルの作製 2) 閉塞性黄疸モデルでのBTの確認と病態解明 平成25年度 3)閉塞性黄疸モデルラットにおける薬剤(DKT,MHN-02)投与の効果検討を行う予定としていた。 1) 閉塞性黄疸モデルの作製: ラットの総胆管を結紮し、閉塞性黄疸モデルを作製した。 コントロール群(n=5)では、血清T-bil値が正常であったのに対して、総胆管結紮モデル群(BDL群)では、術後1日目・3日目・5日目・7日目・14日目の群で有意にT-bil値が高値であり、閉塞性黄疸モデルの作製に成功した。 2) 閉塞性黄疸モデルでのBT確認: コントロール群(n=5)では、腸間膜リンパ節培養が陰性であったのに対してBDL群では、術後1日目・3日目・5日目・7日目・14日目・28日目のいずれにおいても腸間膜リンパ節培養にて腸内細菌群が陽性(BT発生率100%)であり、閉塞性黄疸モデルでのBT発生を確認した。 3) 閉塞性黄疸モデルにおける薬剤(DKT)投与の効果検討: BT発生率は、コントロール群では0%, BDL群では3,7,14日後いずれの群でも100%であったのに対して、総胆管結紮+DKT投与群では3日後100%,7日後20%,14日後0%と時間依存的に有意に抑制された(7,14日後でp<0.01)、DKTの閉塞性黄疸モデルにおけるBT抑制効果を示唆する結果が得られた。 このように、H24年度終了時点で、H25年度に予定していた閉塞性黄疸モデルにおける薬剤(DKT)投与の効果検討を行うことができたことから、本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度に作製した閉塞性黄疸モデルを用いて以下の病態解明のための研究を行う予定である。 1) BTの発生機序・DKTの作用機序解明:HE染色による小腸絨毛の数・高さの評価・TUNEL染色、caspase-3染色とRT-PCRで小腸上皮細胞のapoptosisへの影響を評価する。Tight junction protein(Occludin, Claudin4, ZO-1)について、RT-PCR、Western blot法でmRNAレベル、タンパクの発現を評価する。 2) 小腸・大腸・肝臓・脾臓組織中の炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12)についてRT-PCR、Western blot法でmRNAレベル、タンパクの発現を評価する。 3) 便のマイクロビオームでの腸内細菌叢の多様性の評価を行う。 4) DKTによる肝線維化抑制効果についての検討:HE染色・Azan染色・Sirius Red染色にてBDL群・DKT群における肝線維化の評価を行う。 また、DKT投与量を1000mg/kg/dayに増量し、dose dependentな実験を行うとともに、MHN-02投与モデルについても実験を行い、改善効果を検討していく予定である。
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