研究課題/領域番号 |
24890152
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
渡邉 佳一郎 徳島大学, 大学病院, 助教 (20634554)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 癌細胞周囲の酸性環境 / 癌細胞の薬剤耐性 / 新規治療薬 / 多発性骨随腫 |
研究概要 |
TRAILは、その受容体であるdeath receptor 4(DR4)、death receptor 5(DR5)に結合し、アポトーシスを誘導する。TRAILによるアポトーシスは腫瘍細胞に選択的に誘導されるため、TRAIL作用を用いた免疫療法は腫瘍特異的治療法として注目されている。多発性骨髄腫(MM)骨病変部では乳酸を産生するMM細胞と酸産生細胞である破骨細胞が酸性環境を形成しており、骨髄腫細胞に治療抵抗性を賦与している。 DR4は検討したすべてのMM細胞に構成的に発現していた。乳酸を添加しpH6.8に調整した培地でMM細胞株(RPMI8226、INA6、MM1S)を培養すると、DR4 mRNAとともに細胞表面DR4の発現が著明に低下していた。また、破骨細胞との共存培養によってもMM細胞のDR4の発現が低下した。さらに、このような酸性環境下ではrTRAILによるMM細胞株に対する細胞傷害活性が減弱した。そこで我々は、酸性環境でDR4の発現低下がおこるメカニズムについての検討を行った。酸性環境では、ヒストンH3、H4のアセチル化が減少しており、さらにHDAC1、HDAC2の増加を認めた。加えて、HDACの発現を調節することで知られる転写因子SP1の核移行をみとめた。これらのことからDR4の発現低下にはヒストン脱アセチル化によるエピジェネティックな制御が関わっていることが推察され、ChIP assayによって酸性環境ではヒストンH3K9の脱アセチル化がDR4プロモーター領域においておこっていることを明らかにした。HDAC阻害剤であるバルプロ酸は酸性環境においてもDR4の発現を回復させた。酸性環境においては抗DR4アゴニスト抗体はその抗腫瘍効果を減弱させたが、バルプロ酸との併用により抗DR4アゴニスト抗体は酸性環境においても抗腫瘍効果を発揮した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨髄腫細胞あるいは癌細胞株における細胞外pH受容器であるGタンパク共役受容体およびバニロイド受容体のTRPV1を発現しており、また、酸性環境(乳酸添加下、破骨細胞との共存培養下)においては癌細胞の生存に重要な役割を担うAktのリン酸化の亢進が認められた。 多くのMM細胞に構成的に発現しているdeath receptorのDR4の発現が酸性環境下mRNAおよびタンパクともに著明に低下していた。このDR4の発現低下およびrTRAILによるMM細胞株に対する細胞傷害活性が減弱しており、酸性環境でDR4の発現低下がおこるメカニズムについての検討を行った結果、ヒストンH3、H4のアセチル化が減少しており、さらにHDAC1、HDAC2の増加を認めた。加えて、HDACの発現を調節することで知られる転写因子SP1の核移行をみとめた。これらのことからDR4の発現低下にはヒストン脱アセチル化によるエピジェネティックな制御が関わっていることが推察され、ChIP assayによって酸性環境ではヒストンH3K9の脱アセチル化がDR4プロモーター領域においておこっていることを明らかにした。HDAC阻害剤であるバルプロ酸は酸性環境においてもDR4の発現を回復させ、酸性環境においては抗DR4アゴニスト抗体はその抗腫瘍効果を減弱させたが、バルプロ酸との併用により抗DR4アゴニスト抗体は酸性環境において抗腫瘍効果を発揮した。 以上の結果より、MM細胞と破骨細胞が形成する酸環境はMM細胞の生存シグナルを増強し、さらに免疫系細胞の機能を抑制し腫瘍細胞を免疫監視機構から逸脱させるが、MM細胞にDR4の発現抑制をもたらし、免疫担当細胞の機能抑制と相まってTRAILに対する耐性を獲得させることが示唆された。また、HDAC阻害薬の併用は酸性環境下においてTRAIL作用を用いた細胞免疫療法の治療効果を回復させると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
酸性環境におけるAktのリン酸化促進とpH感受受容体、Pim-2ならびにヒストン脱アセチル化などのエピジェネティック制御の関連を調べるとともに、同様の機構によりDR4以外の様々な遺伝子が酸性環境において調節されていることが予想されるため、酸性環境が種々の細胞に与える影響について、より一層の分子生物学的に分析する。また、骨髄腫モデルマウスを用いた免疫療法はin vivo実験が確立されていないため、そのモデルおよび方法の確立を行う。TRAILとHDAC阻害薬の併用が細胞株を用いた実験で有効であることが示されたので、動物モデルを確立でき次第、これらの併用療法のより臨床的な意義を求める。
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