内リンパ嚢の機能、および その制御機構を明らかにすることで、内リンパ水腫をコントロールし、内リンパ水腫を病態とする疾患であるメニエール病の治療法が確立できる可能性に着目した。昨年に引き続き、マウス内リンパ嚢において、Prox1の発現を検討した。Prox1は、成体では脳の一部、神経系、水晶体、リンパ管において発現しており、内耳(蝸牛)では、生後2週間で発現がなくなることが報告されている。蝸牛と一連の腔でつながっている内リンパ嚢では成体でもProx1が強く発現していることがタンパク質レベルで確認できた。内リンパ嚢内腔は1層の上皮でおおわれているが、内リンパ嚢上皮細胞にProx1が強く発現していた。内リンパ嚢は、近位部、中間部、遠位部の3部位に分けられるが、いずれの部位でも発現が確認できた。内リンパ嚢中間部はイオン輸送において重要な場所であり、ミトコンドリアが豊富であるmitochondria-rich cellsと、ミトコンドリアが少ないribosome-rich cellsの2種類の細胞から構成されるが、mitochondria-rich cellsではProx1はほとんど発現していなかった。内耳(蝸牛)、神経系におけるProx1の機能は、前駆細胞から機能を持った細胞への分化誘導を促していると報告されている。内リンパ嚢においても、Prox1がイオン輸送障害時等に機能性細胞への分化誘導を推し進めていることが推測された。さらに、Prox1-GFPマウスを用いて、内リンパ嚢上皮細胞が特異的にGFPで標識されていることから、レーザー顕微鏡で観察すると、内リンパ嚢全体が詳細に細胞レベルで観察可能であり、新しい内リンパ嚢の立体イメージング方法を開発した。
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