老化による骨格筋喪失(サルコペニア)により老人においては活動性や代謝能が低下する。しかしながら筋萎縮を改善するための効果的な治療法は、現時点では確立されていない。一方、Aktシグナル系は筋肉の増殖や肥大に関わっており、動物実験において、高齢動物では同化刺激に対するAktシグナル伝達経路が抑制されている事が報告されている。以上より、Aktを直接活性化することで筋萎縮を改善し、老化に伴う活動性低下や代謝異常を改善させることができるかどうか検討した。 高齢マウス(12ヶ月齢)に対して4週間、骨格筋特異的にAkt1遺伝子を強発現させた。Akt1強発現により、筋力は高齢コントロール群に比較し改善していた。高齢マウスでは、若年マウス(3ヶ月齢)に比較すると、グルコース負荷試験、インスリン抵抗性試験において代謝能が低下していたが、筋肥大により糖代謝能は改善した。高齢マウスでは、脂肪肝を呈していたが、4週間の骨格筋肥大により、脂肪肝の改善が見られた。 高齢マウスにおける遺伝子工学的Akt1活性化が、若年マウスで活性化させた場合と同等に筋肉量を増加させた。組織学的に検討したところtype I線維に変化を認めなかったが、type IIb線維を増加させていた。 腓腹筋におけるAkt1下流シグナルを検討したところ、mTOR、p70S6Kのリン酸化が活性しており、これらの筋肉増殖に関するAktの下流のシグナルが活性化されることで、骨格筋肥大がおこることが示唆された。 一方で、若年マウスにおいてAkt強発現をしたマウスと比較すると、骨格筋重量、骨格筋線維、及び、Akt下流シグナルの活性化は低下していたことから、Aktによる下流シグナル活性化が、老化により減弱していることが関与していると示唆され、これらのメカニズムの解明が今後必要である。
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