本研究は、極めて複雑な脳内の神経回路も、1つのニューロンが多数集合して形成されるという視点から、近年新たに開発された単一ニューロン標識法を用いて単一痛覚ニューロンを詳細に解析し、「痛みの地図」を明らかにすることで、痛みの根本的治療方法や制御方法を確立するための基礎的な知見を供給することを目的としている。これまでの研究により、口腔・顔面領域からの痛み情報が伝えられる神経回路の中で、特に三叉神経脊髄路核尾側亜核(Sp5C)が重要な役割をはたしていることが明らかにされている。なぜならSp5Cからの軸索投射は痛みの感覚のみならず、不快感や恐怖感などの情動、様々な自律神経系反応、そして痛みの調節反応も含めた、痛みの持つ複雑さに関与している可能性があるからである。 本研究において前年度は、単一Sp5Cニューロンをシンドビスウイルスベクターによって可視化するための、実験条件の最適化を行い、本年度は完成したプロトコールをもとに必要サンプル数を集める予定であった。しかし、標識されたニューロンが本当に痛み刺激を受けて、その情報を伝えているニューロンであるかを確認するべく、cFOSの発現も同時にみるよう条件を追加することとした。そのため、ラットの三叉神経領域に疼痛刺激を与え、Sp5CニューロンがcFOSを発現するような刺激の種類の検討、刺激からcFOS発現までの時間の検討、cFOSを免疫組織化学法により可視化するための条件の最適化などを検討した。 最終的にはプロトコールがほぼ完成したので、実験の回数を重ねてサンプル数を増やし順次解析をしていく予定である。
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