研究概要 |
われわれは、ラマン分光顕微鏡を用いて、末梢神経の細胞および組織を非染色で観察し、末梢神経再生の評価法となりうるかを検討した。細胞レベルの検討として、胎生13日のマウスおよび産後2日目のラットからそれぞれ摘出した後根神経節およびシュワン細胞の初代培養を行い、ラマン顕微鏡で細胞の生体信号を検出した。ラマン顕微鏡はLabRam ARAMIS (Horiba Jobin-Yvon )を使用した。組織レベルの検討として、6週齢SDラットの正常な坐骨神経を採取したのち長軸切片を作製し、ラマン顕微鏡で観察した。ピーク変化を培養細胞から得られたピークとの比較を行った。後根神経節およびシュワン細胞のピークはそれぞれ2940 cm-1、2853, 2885, 2909 cm-1であり、異なるパターンを有していた。正常末梢神経組織をラマン顕微鏡で観察したところ、2853, 2885, 2909 cm-1に強いピークを認めた。これらのピークは過去の報告から2853cm-1および2885cm-1は主に脂質に含まれるCH2基を、2940cm-1は主に蛋白質に含まれるCH3基を反映したものであると考えられた。さらに損傷坐骨神経の経時的観察の結果、この2853cm-1に対する2940cm-1のピーク比が術後3週まで有意に上昇し、4週目に低下した。免疫組織化学染色による軸索数と髄鞘面積の比率は、ラマン顕微鏡で観察されたピーク変化と一致していた。これらの結果から、坐骨神経組織から検出されたラマン波形は、その構成組織である神経軸索(蛋白質)および髄鞘(脂質)を反映したものであることが明らかになった。さらに損傷坐骨神経のピーク片は、神経損傷後の再生過程に一致した変化を呈していた。それゆえ、ラマン顕微鏡は非染色で神経再生変化を検出できる可能性があることを示した。
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