膀胱癌に高頻度に生じる遺伝子変化として、第9、17染色体の欠失およびFGFR3遺伝子の点突然変異が挙げられる。本研究は膀胱癌患者尿から高感度、高特異度に上記遺伝子変化を検出し、膀胱癌診断における臨床的有用性を検討した。 尿中剥離細胞は微量であり、また癌細胞以外に炎症細胞や様々な組織由来の細胞が混在する。本検討で用いた遺伝子解析法は、上記染色体上の 一塩基多型を利用し、対立遺伝子を区別することでそれぞれのコピー数を定量する原理に基づく。定量には対立遺伝子の比を1%単位で定量可能であるパイロシークエンス法を用いた。染色体欠失の判定基準は健常人末梢血リンパ球20例のデータから得られた対立遺伝子のばらつきから3SDを超えた症例を欠失ありと判定した。FGFR3遺伝子変異は、異常遺伝子が2%検出された症例を変異ありと判定した。 膀胱癌組織116例を対象とした検討では、上記遺伝子変異は99症例に認めた。同症例尿では87例に遺伝子変化を認めた。一方、20症例の健常者尿にこれらの遺伝子変化を認めなかった。すなわち本定量系を用いることで感度75.0%、特異度100%の精度で尿からの膀胱癌診断が可能であった。尿細胞診では同症例尿での検出感度は44.0%であった。また腫瘍のステージ別での検出感度は尿細胞診察ではTa:30.8%、T1: 56.4%、T2<: 54.2%であったのに対し、本定量系ではそれぞれ、67.3%、82.1%、79.1%であり、全ステージにおいて尿細胞診より高感度の結果を得た。 これらの結果より、本定量系は尿から膀胱癌を診断する優れたツールになり得ることが示唆された。非筋層浸潤膀胱癌は高頻度の再発が問題であり、現状での術後経過観察には侵襲性の高い膀胱鏡検査が必須である。今後大規模な前向き研究を行うことにより、膀胱鏡無しに再発診断可能となる遺伝子検査法としての確立を目指す。
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