研究課題/領域番号 |
24890209
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
家田 淳司 和歌山県立医科大学, 医学部, 学内助教 (50637907)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | CEACAM1 / 大腸癌 / 転移浸潤 / 間質 |
研究概要 |
これまで当教室では大腸癌においてCEACAM1 発現のisoform balanceの違いにより癌浸潤先進部の形態変化を生じ、転移や浸潤などの悪性度に関与するということを報告してきた。本研究は臨床検体および培養細胞を用いて大腸癌のCEACAM1 isoform balanceと癌間質との関係について基礎的研究を行い、CEACAM1 isoform balanceの違いにより転移や浸潤に関するメカニズムを解明することを目的とする。 乳癌細胞においてはNOD/SCID mouseを用いてCEACAM1 isoform balanceの違いにより癌間質の線維芽細胞が筋線維芽細胞へと分化誘導されるという報告はされている(Yokoyama et al. Oncogene, 2007)。筋線維芽細胞は、創部治癒や癌の浸潤部に多くみられる間質細胞で、Epithelial-Mesenchymal Transitionのマーカーの一つとされている。大腸癌において、癌間質の筋線維芽細胞の発現が強くなると、転移と関連し、生存率に関して予後不良となることが報告されている(Tsujino et al. Clin Cancer Res, 2007)。 しかし、乳癌以外の癌細胞や臨床検体においてはCEACAM1 isoform balanceの変化による癌細胞の形態変化と癌間質の形態変化の関係について検討した報告はない。そこで、本研究では大腸癌培養細胞を用いて基礎的検討を行い、さらに大腸癌の臨床検体を用いて、CEACAM1 isoform balanceの違いによる癌浸潤先進部の形態変化と癌間質の変化および臨床病理学的因子との関連を検討する。 本研究により、大腸癌の転移、浸潤に関するメカニズムが解明されることにより、大腸癌の浸潤、転移を抑制することができる新たな治療の開発へとつながる可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸癌臨床検体を用いて、CEACAM1 isoform balanceと癌浸潤先進部の形態変化、癌間質の変化について検討した。64例の症例で筋線維芽細胞のマーカーであるvimentin, a-smooth muscle actinに対する抗体を用いて免疫組織化学染色を施行し、リンパ節転移や血行性転移との関連について検討を行った。vimentin の発現と転移については有意な関連を認めなかった(p=0.18)。a-smooth muscle actin の発現と血行性転移については有意な関連は認められなかったが(p=0.06)、a-smooth muscle actinが発現している症例は有意にリンパ節転移が多かった(p=0.04)。このことから、癌浸潤先進部での筋線維芽細胞の発現は、リンパ節転移に関与することが示唆された。また、b2-integrinの発現とリンパ節転移、血行性転移に関する検討を行った。b2-integrinが発現しているものでは、有意にリンパ節転移、血行性転移が多くみられた(p=0.0004, p=0.0001)。各マーカーの発現と生存率に関する検討をlog rank testにて行った。a-smooth muscle actinの発現は生存率に有意な差は認めなかったが(p=0.22)、b2-integrinを発現している症例は生存率が不良であった(p=0.006)。各マーカーとCEACAM1 isoform balanceの関連について検討した。CEACAM1-long優位であるものとvimentin, a-smooth muscle actin の発現には有意な関連は認められなかった(p=0.46, p=0.55)。しかし、CEACAM1-long優位であるものと、b2-integrinの発現には有意な関連を認めた(p=0.03)。
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今後の研究の推進方策 |
今後、さらに症例を増やし、臨床病理学的因子を含めた詳細な検討を行う予定である。また、培養細胞を用いた基礎的研究の開始を予定している。 HT29とLS174Tの2種類の大腸癌培養細胞を用いる。2種類の大腸癌培養細胞にリポフェクション法によりCEACAM1-L, CEACAM1-Sを遺伝子導入し、CEACAM1 isoform balanceを変化させる。 各培養細胞を、細胞外マトリックス成分を多く含むマトリゲル(BD Bioscience, USA)を用いてた3D cultureにて培養し、その上清中のVEGFやTGF-bなどの因子に関してELISAを施行し、癌細胞の間質細胞へ作用するサイトカイン分泌能について検討する。 また、同様に各細胞を線維芽細胞とともに培養し、線維芽細胞をa-smooth muscle actinやvimentinなどのマーカーを用いて細胞染色を施行し、CEACAM1 isoform balanceの線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化への影響について検討する。 また、in vivoの検討において、各培養細胞を線維芽細胞とまぜてNOD/SCID mouseの直腸内に注入し、直腸癌モデルを作成する(Yokoyama S et al. Oncogene, 2007)。8週間後に腫瘍を採取し、腫瘍径や直腸壁への浸潤の程度、転移の有無を確認する。H.E.染色により癌の形態および癌間質の形態について観察する。また、免疫組織化学染色を施行して、癌間質線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化を評価、検討する。さらに、-integrinやFAK, TGF-などの因子に関しても免疫組織化学染色を施行し、各細胞間の変化を比較検討する。直腸壁内への注入による直腸癌モデルのみでは有意な結果が得られなかった場合は、肝転移モデルや腹膜播種モデルの作成も考慮する。
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