研究課題/領域番号 |
24890219
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
吉田 昌史 自治医科大学, 医学部, 助教 (50528411)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | GLP-1 / Trpm2 / インスリン分泌 / インクレチンホルモン / 膵β細胞 / cAMP / exendin-4 / EPAC2 |
研究概要 |
本研究はGLP-1(glucagon-like peptide 1)の膵β細胞に対する作用機序解明を目的に立案した。平成24年度は①~③の実験を実施した。①Trpm2チャネル(Trpm2)のノックアウトマウス(KO)から採取された膵β細胞に対するexendin-4 (EX-4)刺激の効果の検討。②SUR1KOから採取された膵β細胞に対するEX-4刺激の効果の検討。③膵島還流実験によるインスリン分泌測定。①の結果:野生型マウスでは100 pM EX-4刺激にて有意な背景電流の増加が観察されたが、Trpm2KOではその効果は消失した。この結果より、EX-4依存性に制御される背景電流はTrpm2であることが明らかになった。②の結果:SUR1KOから採取された膵β細胞ではEX-4刺激による背景電流の増加が観察されなかった。EX-4刺激によるTrpm2電流の増加はcAMP-EPAC2経路が関与するが、SURはEPAC2のアンカータンパクとして知られていることから、その消失によりEPAC2の機能が低下したのではないかと予測された。③に代わり、膵β細胞内カルシウム測定実験を実施した。野生型マウスにおいて100 pM EX-4刺激によりグルコース刺激時の細胞内カルシウム濃度の全体的な上昇が観察された。このことから、生理的濃度のEX-4刺激によりインスリン分泌が増加することが示唆された。①~③に追加し、EPACインヒビターの効果の検討を行った。EPACインヒビター使用にて膵β細胞のTrpm2電流におけるEX-4効果は消失し、グルコース刺激時の脱分極も有意に抑制した。以上の結果から、生理的濃度のGLP-1はEPAC2を介してTrpm2を活性化し、膜電位脱分極およびインスリン分泌増強に寄与していることが明らかになった。生理的濃度のGLP-1の効果に対する報告はまだ無く、今回の発見の意義は大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度計画した実験計画は、一部変更はあったもののほぼ全て実施することができた。得られた結果も意義のあるものであった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は①Trpm21チャネルのイオン透過性の検討、細胞内カルシウム濃度測定とTrpm2電流の同時測定によるTrpm2チャネル透過Ca2+の生理的意義の検討を行う。 ②Trpm2チャネル以外にも背景電流は存在し、それがどのようなタイプのチャネルかどうかをTrpチャネルの各種ブロッカーを使用して確認する。受容体刺激で活性化されるTrpチャネルにm2以外にどのようなものがあるかも検討する。 ③グルコース刺激インスリン分泌において背景電流の意義を検討する。 ④単一β細胞とisletでの背景電流の機能的相違を検討する。 以上の研究テーマに対して、平成25年度は主に消耗品を計上する。備品は現有機器を用いる。以上の目的が達成されれば、インスリン分泌機構におけるTrpチャネルの意義がさらに明らかになり、今後の糖尿病治療への展開へとつなげることができる。また、GLP-1の意義としてグルコース刺激インスリン分泌の増強作用が指摘されてきたが、本研究では分泌の第1相に重要な働きをすることが明らかになることから、従来のインスリン分泌機構の機序を再検討するという画期的提案がなされることになる。低濃度のGLP-1(サブナノモラーレベル)で効果が発現するという本研究結果はインクレチン作用によるインスリン分泌刺激の増強効果を示すもので、学術的特徴がある。
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