脳循環の異常は、脳梗塞や神経変性疾患、更には片頭痛など非常に多くの疾患の発症に関与しており、生活の質を著しく低下させている。超高齢化を迎え、糖尿病や高血圧などのリスクファクター保持者が増加し続けている現代社会においては、脳循環の破綻に起因する疾患の罹患者数が増大し続けると予想されるが、未だ有効な予防法あるいは治療法は確立されていない。しかしながら非常に興味深い事に、多くの脳循環障害時には皮質拡延性抑制 (Cortical spreading depression; CSD) という脳微小循環変化のプロセスが出現する事が知られている。本研究ではCSDを抑制する薬物の探索を目的とし、特にレドックスシグナル関連分子の動態を制御する薬物の効果について検討した。本年度は特にNMDA型グルタミン酸受容体により制御される脳血流量増大モデルを新規に確立し、脳血流量変化が神経回路の神経細胞やグリア細胞に与える影響について解析した。その結果、NMDA投与時間依存的に大脳皮質視覚野から外側膝状体にかけてグリア細胞が活性化し、それに伴って神経細胞数が減少することを見出し、MK-801がNMDAによる脳血流量増大を顕著に抑制し、グリア細胞の活性化および神経傷害をも抑制することを明らかにした。さらに、MEK/ERKシグナルの活性化および、calcineurin/NFATシグナルの活性化がNMDAによる脳血流量増大に重要な役割を担うことを明らかにした。
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