CBA/Jマウスに対し、小胞体ストレスをブロックする薬剤であるTUDCAを長期的に投与し、加齢性難聴を予防できるかどうかを検討した。 TUDCA・溶媒のみ・生食のみ・無処置の4群を設定し、それぞれの投与を3日に1回継続し、6-8週間に一度のABR測定を継続して行った。残念ながらTUDCA投与群の半数が年度の途中で麻酔による死亡をきたしてしまい統計学的なパワーが劣る形となってしまった。投与を12か月継続施行した時点で、p<0.10での聴力差が溶媒投与群および無処置のコントロール群とTUDCA投与群との間でみられたが、統計学的パワーとの関係から統計学的な有意な差とはならなかった。しかしながらさらに投与を継続し、投与14か月経過した時点の聴力では、TUDCA+溶媒投与群と溶媒のみ投与群の16kHZにおける聴力を比較すると、統計学的に有意な差を得ることができた。薬剤を予防的に投与し続けることで、生理的な加齢性難聴を予防できたとする過去の報告は皆無であり、とても重要な結果を得られたと考えている。 CBA/Jマウスの寿命は一般的に約2年程度とされており、現在投与終了の時期について検討を重ねている最中であり、薬剤投与をそのまま継続中である。今後、投与終了時にABR測定を行い、かつ有毛細胞数カウント・らせん神経節細胞数カウント、および中枢(脳幹・聴覚野)における神経栄養因子や小胞体ストレス特異的マーカーの染色などを施行することにより、組織学的な裏付けを行い、実験を終了させる予定である。
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