神経細胞間の情報伝達はシナプスを介するネットワークが主要な機能構造であると考えられていたが、1995 年頃よりシナプス領域外に存在する受容体の機能と特性が明らかとなり、それまで脇役であったこの領域外受容体が脳機能調節に重要な役割を担うことが理解されてきた。なかでもシナプス領域外GABA 受容体はGABA に対する高い親和性と緩慢な脱感作特性から、細胞周囲のGABA 濃度センサーとして働き、持続的な電流(Tonic current)を提供している。我々の研究でも、吸入麻酔薬(セボフルラン)の領域外GABA 受容体に対する強力な作用が観察された。2MAC の吸入麻酔薬投与(MAC;最小肺胞濃度)によりいずれの日齢(P7、P14、P21、P28)でもTonic GABA 電流は増大をみとめ、またGABA transporter blocker の添加でセボフルランの効果が増強されたことから、中因性GABA に反応してTonic GABA 電流を増大させていると考えられた。即ち線条体細胞ではセボフルランがTonic GABA 電流を増大させた。さらにその大きさは生後7日(P7)から28 日(P28)までは日齢とともに増加した。また細胞膜容量(τ)で補正すると、日齢との間に強い相関関係がみられ、この時期のTonic GABA 電流の増大が、吸入麻酔薬の『興奮作用』と関連してその後の脳発達に影響を与える可能性が示唆された。今後は脳の成長発達課程におけるGABA 受容体サブユニットの変化をも含め解析を進める計画である。さらに老化モデルマウスに対する同様の実験を行い、老化現象とこの領域外GABA 受容体との関連性の検討を加えたい。
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