内耳において、聴覚を司る蝸牛の有毛細胞は再生しないが、平衡覚を司る卵形嚢の有毛細胞は一部再生することが知られている。が、しかし、この卵形嚢有毛細胞の自発的な再生過程は未だ明らかとなっていない。卵形嚢有毛細胞の発生起源は耳胞のみであると考えられてきたが、最近、その一部は内耳に遊走・分化する神経堤細胞であることが報告された。本研究では、神経堤細胞をGFP標識したWnt1-Creトランスジェニックマウスを用いて、神経堤細胞が自発的に再生する有毛細胞の起源であるかを検証した。実験方法としては、出生3日目のWnt1-Creトランスジェニックマウス卵形嚢感覚上皮の器官培養実験を行った。まず、卵形嚢有毛細胞に対して毒性を有するゲンタマイシンを添加した培養液中で、卵形嚢感覚上皮を48時間器官培養し、すべての卵形嚢有毛細胞の感覚毛を一旦完全に消失させた。次に、ゲンタマイシンフリーの培養液中で、卵形嚢感覚上皮を14日間器官培養した。器官培養終了後、顕微鏡下に卵形嚢感覚上皮を観察したところ、自発的に感覚毛が再生した卵形嚢感覚上皮細胞の一部にGFP陽性細胞が存在した。さらに、蛍光二重免疫染色を行ったところ、自発的に感覚毛が再生したGFP陽性の卵形嚢感覚上皮細胞は卵形嚢有毛細胞マーカーであるMyosin 7aを発現していた。これらの結果は、自発的に感覚毛が再生する卵形嚢有毛細胞の中に神経堤細胞が存在することを示唆している。
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