眼窩下神経慢性結紮損傷(ION-CCI)後に顎顔面領域に発症する疼痛異常は、三叉神経脊髄路核尾側亜核(Vc)領域のミクログリアがGタンパク共役型ATP受容体であるP2Y12受容体を介して活性化し、活性化されたミクログリアから遊離されるBDNFが、二次神経の興奮性を変化させることにより発症するのではないかと推測される。本仮説を立証するために、次の項目を明らかとすることを目的とした。1.ION-CCI後のVc領域に分布するP2Y12受容体の局在 2.ION-CCI後のP2Y12受容体アンタゴニスト髄腔内持続投与による行動薬理学的変化 3.ION-CCI後の経時的髄腔内ATP量変化 4.ION-CCI後のVc領域におけるBDNF発現量変化 Sprague-Dawley系雄性ラットを用い、次の研究成果を得た。1.ION-CCI後3日目、口髭部皮膚への機械および熱刺激に対する逃避反射閾値は、有意に低下した。さらに、P2Y12受容体特異的アンタゴニストの髄腔内連続投与によりその逃避反射閾値の低下は有意に抑制された。ION-CCI反対側口髭部皮膚の逃避反射閾値の変化は認められなかった。 2.ION-CCI後3日目、Vc領域のP2Y12受容体はミクログリアに特異的に発現した。 3.ION-CCI後1日目、sham群と比較して脳脊髄液内ATP量が有意に増加した。 4.ION-CCI後3日目、sham群と比較してVc領域のBDNF量が有意に増加した。 以上の結果からION-CCI後に顎顔面領域に発症する疼痛異常は、Vc領域のミクログリアがP2Y12受容体を介して活性化し、活性化されたミクログリアから遊離されるBDNFが、二次神経の興奮性を変化させることにより発症するのではないかと考えられる。今後、本研究成果はP2Y12受容体をターゲットとした新規神経障害性疼痛治療薬開発の一助となる。
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