研究課題/領域番号 |
24890260
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
武井 浩樹 日本大学, 歯学部, ポスト・ドクトラル・フェロー (50632543)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | レプチン / 島皮質 / 抑制性シナプス後電流 / 興奮性シナプス後電流 |
研究概要 |
大脳皮質島領野(島皮質)は一次味覚野として知られ、摂食中枢である視床下部と密な神経連絡が存在する。したがって、味覚と食欲の情報は島皮質で統合されていると考えられる。そこで本研究は、主要な摂食抑制因子であるレプチンおよびインスリンの大脳皮質島領野(味覚野)における局所神経回路に対する修飾作用を明らかにすることを目標とする。 島皮質の複数のニューロンからパッチクランプ法によって同時に記録し、シナプス結合が存在するニューロンペアを見つける。シナプス前ニューロンに脱分極性パルスを与え活動電位を発生することによって誘発した単一性興奮性シナプス後電流(EPSC)ならびに抑制性シナプス後電流(IPSC)を記録し、その振幅がレプチンによりどのように変化するか検討した。 結果、100 nMレプチン投与によりIPSCの振幅が有意に増加した。レプチンの細胞内情報伝達経路にはphosphoinositide 3-kinase(PI3-K)経路と、mitogen activated protein kinase(MAPK)、signal transducers and activators of transcription factors 3(STAT3)経路が存在する。それぞれの阻害薬を共投与した際にレプチン単独投与で認められた変化が生じるか検討したところ、PI3-KおよびSTAT3経路阻害薬の存在下においてレプチンによるIPSCの振幅の増加は認められなかった。一方でMAPK経路阻害薬の存在下ではレプチンによるIPSCの振幅の増加が認められた。また、レプチンの投与によりEPSCの振幅は有意に減少した。 以上より、レプチンは島皮質の局所神経回路に対して抑制的に働き、この修飾作用はPI3-KまたはSTAT3を介して生じることを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は多チャンネル同時ホールセル・パッチクランプ法を用い、摂食抑制因子であるレプチンおよびインスリンの大脳皮質島領野(味覚野)における局所神経回路に対する修飾作用の解明を目標とする。 島皮質の複数のニューロンから同時ホールセル記録し、シナプス前ニューロンに脱分極パルスを与え活動電位を発生させることにより誘発した単一興奮性シナプス後電流(EPSC)および抑制性シナプス後電流(IPSC)を記録し、レプチンにより振幅がどのように変化するか検討した。100 nMレプチンの投与によりIPSCの振幅が有意に増加する一方で、EPSCの振幅は有意に減少することを明らかとした。 次にレプチンの細胞内情報伝達経路の阻害薬とレプチンの共投与中のシナプス後電流の振幅の変化を見ることにより、レプチンによるシナプス後電流への修飾作用がどの細胞内情報伝達経路を介して生じているかを検討した。phosphoinositide 3-kinase(PI3-K)およびsignal transducers and activators transcription factors 3(STAT3)経路の阻害薬とレプチンを共投与したところレプチンによるIPSCの振幅増加は認められなかった。一方で、mitogen activated protein kinase(MAPK)経路の阻害薬との共投与ではIPSCの振幅増加が認められた。このことより、レプチンによるIPSC振幅の増加はPI3-KまたはSTAT3経路を介して生じていることを明らかとした。 上記より、平成24年度の達成目標である「島皮質における局所神経回路におけるレプチンの修飾作用の解明」はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度で島皮質におけるレプチンの局所神経回路への修飾作用について、レプチンが抑制的に働くことを明らかとした。この結果をふまえ、平成25年度は島皮質の複数のニューロンからパッチクランプ法によって膜電流を記録し、脱分極パルスによって誘発した単一シナプス後電流におよぼすインスリンの修飾作用を検討する。 平成24年度と同様にVenus蛍光タンパク遺伝子ノックインラットの島皮質を含む急性脳スライス標本を作製する。島皮質の複数のニューロンから同時ホールセル記録し、シナプス前ニューロンに脱分極パルスを与え活動電位を発生させることにより誘発した単一興奮性シナプス後電流(EPSC)および抑制性シナプス後電流(IPSC)を記録し、インスリンにより振幅がどのように変化するか解析する。インスリンの塞翁内情報伝達経路にはレプチンと同様にPI3-K経路とMAPK経路が存在する。インスリンによる単一シナプス後電流への変化が認められた場合、それぞれの阻害薬であるwortmanninおよびPD98059とインスリンの共投与における単一シナプス後電流の変化を解析することにより、インスリンの島皮質におけるシナプス伝達修飾作用がどちらの細胞内情報伝達経路を介して生じているかについて検討する。
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