研究概要 |
本研究は,慢性糸球体腎炎で最多の疾患であるIgA腎症(IgAN)において,免疫複合体形成機序,腎炎進展機序の解明を目指し,近年注目される糖鎖異常IgA1の糖鎖構造を,高分解能質量分析計を用いて詳細に解析し,本症特異的な糖鎖構造の同定を試みた。IgAN患者5名,健常者5名,IgA1産生骨髄腫3名よりそれぞれIgAを分離高分解能質量分析計(Orbitrap Velos ETD, Thermofisher scientific社製)にて測定し,IgA1ヒンジ部O結合型糖鎖構造を同定した。ガラクトース欠損を伴う糖鎖構造は健常者由来IgA1にも認めたが,IgAN患者及びIgA1産生骨髄腫患者血清由来IgAはガラクトース欠損糖鎖を健常者に比し多く認めた。糖鎖付着部位の解析により,ガラクトース欠損糖鎖付着部位はランダムではなく,3ヶ所に限定されることが明らかとなったが,健常者でも同様の位置に認め,患者特異的に増加する糖鎖構造は同定できなかった。IgANではIgA1ヒンジ部O型糖鎖に対する糖鎖特異的IgG抗体を血清に認めることが報告されている。糖鎖特異的IgG抗体が認識するIgA1ヒンジ部O結合型糖鎖構造の同定をめざし,IgAN患者の血清IgGに結合する糖鎖異常IgA1の精製分離を試みたが困難であった。 本研究によりIgAN患者血清糖鎖異常IgA1の構造が糖鎖付着部位を含めて初めて明らかとなった。特異的糖鎖の同定は困難であったが,本症血清中の糖鎖特異的自己抗体が,糖鎖異常部位をエピトープとして認識し,免疫複合体が形成されるため,詳細な異常糖鎖構造の部位を含めた同定の意義は大きく,今後のバイオマーカー開発や特異的な治療の開発へ大きな貢献となると考えられる。
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