オートファジーは生命をささえる細胞の自己分解システムで、生命維持に重要な働きをしているが、幹細胞における機能は不明な点が多い。本研究では、昨年に引き続きEmbryonic stem cells (ES)細胞におけるオートファジーの意義、メカニズムについて検討を行った。 樹立したATG12ノックアウトES細胞の表現型を解析したところ、wild typeと比較して増殖能が低下していることが明らかとなった。このATG12ノックアウトES細胞からEmbryonic body (EB)形成を誘導して形態観察したところ、EB形成不全を認めた。また、オートファゴソームのマーカーとして知られるLC3、透過型電子顕微鏡(TEM)による細胞内部構造の観察により、オートファジーが誘導されているかどうか調べたところ、ATG12をノックアウトすると、ES細胞のオートファジーが阻害されることが示された。 さらに、飢餓状態や低酸素条件のストレス環境において細胞特性について検討を加えた結果、ATG12ノックアウトES細胞は細胞死が過剰に引き起こされ、細胞の生命活動に有意に関与しており、そのメカニズムにはミトコンドリアが影響していることが示唆された。本研究成果は日本口腔外科学会総会において発表した。 本研究により、オートファジー、ミトコンドリアが多能性幹細胞の生死制御に関与する可能性が示された。再生医療の臨床応用には細胞の大量培養が必須であるが、多能性幹細胞はストレスに弱く容易に細胞死を起こすことが臨床応用への障害となっている。今後さらなるメカニズムの解明をすすめることにより、多能性幹細胞の安定した細胞調製、維持、品質管理に貢献できることが示唆される。
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