本研究の目的は,①たとえ認知症であっても一人で高齢者が住み慣れた自宅で暮らすことが可能な地域のネットワークのあり方,および②このような地域づくりを促す医療,福祉,介護専門職の役割を明らかにすることである. そのために,都市圏内に暮らしながら認知症状が比較的軽い段階で発見され,一人暮らし継続のための在宅支援サービスにつながった成功事例15ケースに着目した.調査方法は,それぞれの一人暮らし認知症高齢者が在宅支援サービスにつながるまでの経過において,関わった人たちにそれぞれにインタビュー調査を実施し,ケースごとに比較検討しながらまとめた.なお,ケースごとの比較においては,一人暮らし高齢者の認知症状が疑われ,在宅支援サービスにつながっていったのは,いつ,だれによって,なぜ,どのような方法によってなのか?を中心に考察した. インタビュー調査から,地域に住む一人暮らし認知症高齢者が在宅療養サービスにつながる経過をまとめると,①「認知症状が発現する以前からの長いインフォーマルな付き合い」が基盤にあり,その長期的な付き合いの中で,②「徐々に変化していく当該一人暮らし高齢者の“様子のおかしさ,ちぐはぐさ”に気づく」ことによって,③「“このまま,放っておけない”気持ち」に触発されて,公的サービスにつながっていくことが示された.さらに,「一人暮らし高齢者の“様子のおかしさ,ちぐはぐさ”が迷惑行為としてとらえられる」と,“苦情”となって公的サービスに連絡されることもあった. 以上のようなインタビュー調査から,一人暮らし高齢者が長年にわたって築き上げているインフォーマルな付き合いをどのようにして組み込んでいくのかということが,地域ネットワークのあり方の鍵になっていると考えられた.
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