本研究では、ウシ副腎髄質細胞に存在するエストロゲン結合部位を、その薬理学的性質の新規性から新たなエストロゲン受容体であると仮定し、(1)エストロゲンや植物性エストロゲンが細胞膜エストロゲン受容体を介してウシ副腎髄質細胞のチロシン水酸化酵素を活性化するシグナル伝達機構の解析と(2)その受容体タンパク質の同定を試みた。 (1)について、副腎髄質細胞をエストロゲンで刺激するとわずかながらチロシン水酸化酵素の活性化が起こることを確認した。チロシン水酸化酵素の活性化はタンパク質のリン酸化によることが知られている。チロシン水酸化酵素のリン酸化状態に及ぼすエストロゲンの影響をウェスタンブロッティングによって検討したが、有意な差はみられなかった。また、チロシン水酸化酵素のリン酸化に関わるリン酸化酵素であるERKやPKAの活性化にもエストロゲンの影響はみられなかった。(2)について、受容体タンパク質の同定をphage display法によって行った。まず、受容体タンパク質を含むウシ副腎髄質細胞の細胞膜を精製し、これをウサギに免疫して、膜タンパク質に対する抗体を作成した。ウシのリンパ球の細胞膜にエストロゲン結合能がないことを確認したのち、作成した抗体とリンパ球細胞膜を反応させ、反応した抗体を除去した。この抗体を用いて、副腎髄質細胞のmRNAから作成したphage cDNAライブラリーをスクリーニングし、得られたポジティブクローンの遺伝子を解析した。その結果、膜タンパク質の一部を発現するphageクローンが多数得られ、エストロゲン受容体の候補となるタンパク質を選別するのが困難であった。現在は、リンパ球以外の細胞タンパク質で不要な抗体をさらに除去できないか検討中である。
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