本研究では、胎児期の栄養状態とエピジェネティックな変化を介した遺伝子発現異常との関連の詳細を明らかにすることを目的とした。具体的には、胎児発育遅延例および正常出生体重例を対象に、胎児期栄養状態に起因するエピジェネティックな影響をヒト胎盤で解析した。胎児期栄養状態は、妊娠期母体体重増加量を指標に評価した。 胎児発育遅延例(14例)の胎盤における、約45万か所のCpGサイトのDNAメチル化率を検出した結果、正常出生体重例(19例)のそれと比べて、有意に共通してメチル化が変化するようなCpGサイトは見いだされなかった。また、妊娠期母体体重増加量を不足、適正、超過の3群に分類し、その影響を胎児発育遅延例、正常出生体重例でそれそれ解析したところ、群別に共通して変化するメチル化CpGサイトは検出されなかった。したがって、胎児発育遅延の原因となる共通したエピジェネティック異常、あるいは胎児期栄養状態に起因する共通したエピジェネティック異常が本解析に用いたサンプル群からは胎盤にあるとは考えられなかった。 ところが、それぞれの胎盤サンプルにおいて、DNAメチル化率の外れ値の頻度を数えたところ、正常出生体重例内では、妊娠期母体体重増加量が適正範囲から外れれば外れるほど、その頻度が増えることを認めた。胎児発育不全例では、適正体重増加群であっても、正常出生体重例のそれに比べると外れ値が高頻度で検出された。 本研究において、正常体重出生児であっても、妊娠全期間の母体体重変化が適正範囲を外れると、胎盤エピゲノムに揺らぎが生じやすくなることを認めた。また、胎児発育不全例は母体体重変化には関連しない胎盤エピゲノムの揺らぎがあることが示唆された。 本研究成果は、適切な妊産婦栄養管理の指標として、また、成人期の代謝異常危険予測因子としての応用展開が期待される。
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