微小重力環境下において抗重力筋を構成する筋線維に萎縮や速筋化(新たな速筋型ミオシン重鎖の発現)が誘発される。しかしこの時、抗重力筋内の筋線維に一様に特性変化が誘発されるのではなく、萎縮の程度は同じものの、速筋化が誘発される筋線維と誘発されない(非速筋化)筋線維が混在している。この違いが生じる原因は明らかにされていない。本研究では、両筋線維におけるミオシン重鎖発現の異なる調節メカニズムを解明することを目指し、下記の実験を行った。 10週齢のウィスターハノーバーラットを14日間後肢懸垂飼育し、抗重力筋にかかる重力負荷を抑制した。その結果、速筋型ミオシン重鎖を発現する筋線維の数が増加することを確認した。また、単離した単一筋線維内の速筋型および遅筋型ミオシン重鎖のmRNAおよびタンパク質の発現量について解析した結果、各ミオシン重鎖の発現はmRNAへの転写の段階で調節されている可能性が示唆された。 先行研究により、ミオシン重鎖の発現は、筋線維の電気的活動パターンや支配される神経細胞の影響を受けることが報告されている。そこで、これらと遅筋線維の速筋化の関連性を追究する実験を行った。実験には、上記同様のラットを用い、「後肢懸垂飼育により抗重力活動に伴う後肢の持続的な筋活動を抑制したとき(電気的活動パターンの変化)」と、「坐骨神経切除により筋活動を完全に抑制したとき」のヒラメ筋の速筋化を比較した。14日後、どちらの処置も同等にヒラメ筋に速筋化を誘発したことから、筋線維が遅筋の特性を維持するうえで、神経細胞の作用および筋線維の電気的活動パターンが重要であることが明らかとなった。しかし同時に、遅筋型ミオシン重鎖のみの発現を維持した筋線維の存在も多数確認されたことから、これらとは別に、筋線維内におけるエピジェネティックな遺伝子制御も関与している可能性が示唆された。
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